『永すぎた春』

キネカ大森の三島由紀夫映画祭。監督の田中重雄は新興キネマ以来の大ベテランで、あまり面白い作品がなかったので、出来を危惧したが大変面白かった。
増村などと比較すればテンポは鈍いが、演出は上手い。
三島由紀夫原作映画でも、できの良い方だろう。脚本白坂依志夫。

話は、古本屋の娘若尾文子と大富豪の息子川口浩が結ばれるまでの恋騒動。
三島らしい皮肉はなく、大映らしく貧民の村田千栄子・八潮悠子親子が出てきての、若尾の兄の船越英二との恋愛沙汰が最高に面白い。
若尾らが行く、銀座の音楽喫茶で丸山明広と東郷たまみが歌う。

村田千栄子は、大映のベテラン女優で、ケチとか嫌味な老女を演じると最高に良い。成瀬巳喜男の『稲妻』でもケチな姉として出てきたはずだ。
増村保造の傑作『妻は告白する』でも、若尾文子と敵対する女中。

ついでに夕刻に見た『憂国』は、サイレント映画で、台詞は一切なし。
これは『空っ風野郎』で苦労した三島の賢明な選択だった。
能のごとき様式劇で、三島の下手な台詞が出たら幻滅だろう。喜劇としては最高だが。

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