『タンゴ、冬の終わりに』


1984年にパルコ劇場で、平幹二郎、松本典子、名取裕子らの共演で上演された清水邦夫作、蜷川幸雄演出の作品。

冒頭は余りにも有名な、映画館で多数の若者がニューシネマ『イージーライダー』を見ていて、主人公が銃殺されるらしいシーンで大げさに慨嘆する場面。
スローモーションが若者たちの心情を拡大、増幅して見せる。数々の蜷川の名演出の中のでも最高の一つだろう。
今回も、以前よりはるかにパワー・アップして再現されたが、やはり涙が出る。

北国の廃墟と化した映画館。そこに元俳優で神経を冒された主人公堤真一が戻ってくる。
妻秋山菜津子、さらに若手女優の常盤貴子、その夫段田安則らが追ってくる。
狂気に支配されている堤も時々は過去を思い出し、華やかな時代の幻影に酔う。
中身は、ほとんどが堤の独白のようなものだが、そこに様々な人間が交差、重層する。清水と蜷川の手法は確かで、堤、秋山、段田、そして毬谷友子らの役者もすごい。
だが、問題は常盤貴子で、発声、台詞が全く出来ていない。
昔見たとき「名取裕子は随分と大根だな」と思ったが、遥かに上だったと名取を再認識した。
さすがの蜷川でも、この常盤の鈍感さはどうにもならなかったようだ。
なにより、すべてが雑、粗雑である。その辺の心構えから直さないとどうにもならない。

暗く目立たない掃除女として、毬谷が出ているが、「なんて下手な女優だ」と常盤を見ているに違いない。
狂気に付かれた登場人物の中で、毬谷は唯一の普通の人間であり、彼女を配したことは、生活者の視点からこの劇を相対化する、という蜷川に意図だと思う。
久しぶりに芝居に酔った幸福な時間だった。

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コメント

  1. 桃子 より:

    Unknown
    そんなに酷かったかな?

    常盤貴子さん

    私は良かったけどな!!!