『夏子の冒険』

いろいろと古い映画を見てきたが、これほど保存状態がひどいのは珍しい。『カルメン故郷に帰る』に次ぐ松竹2本目のカラーで、この年の興行成績の4位だったのだが、一部は音だけで映像がなく、ラストの方では音声が全くなくてサイレント映画になっており、そこは字幕でつないでいる。ろくに当たらなかった映画ならきちんと保存しなかったというのならわかるが、大ヒットした映画がきちんと保存されていないのは実にひどい。これでよく著作権の年限を伸ばせなどと言えるもなのか松竹をはじめ日本の映画製作者は。

原作は三島由紀夫、脚本山内久、監督中村登、音楽は黛敏郎、主演は角利枝子で、私は大映での年増役しか知らなかったので、若いころはきれいだったのだなと思った。

裕福な家の娘の角が、多くの男から言い寄られるが(中には土屋嘉男もいる)、男に飽き函館の修道院に入ることを決意して、北海道に行く。

その上野駅でライフルを持ったワイルドな男の若原雅夫に会い、一目ぼれしてしまう。

ヒロインの相手が若原雅夫というのがあんまりな気がする。松竹にはこの程度の二枚目しかいなかったのか。せめて鶴田浩二にしてほしかったと思う。

彼は、熊を撃ちに来たと言い、昔狩猟に来て山小屋で知合い、愛した娘の淡路恵子が、半年後に熊に殺されたので、復讐に来たのだという。その小屋の親父は坂本武、淡路の妹が桂木洋子。

角利枝子の母は岸輝子、祖母が東山千枝子、叔母が村瀬幸子の俳優座の女優で、皆上手いので大いに笑わせてくれるが、この辺は原作ではなく脚本のものだと思う。

函館から札幌に行き、当時の風物がカラーで撮影されているのは貴重、札幌にも路面電車があったと初めて知った。

最後は、虻田村に行き、村人こぞりての山狩りになり、熊が出て来て、無事若原に撃たれ、角は彼と結ばれてハッピーエンドなのだが、そこは映像、音声共になく、シナリオの記述を字幕で読むのみ。

衛星劇場

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コメント

  1. Y. Kubota より:

    指田文雄評論家の【夏子の冒険】の解説にについてフィードバックせていただきます。
    私は、ごく最近、衛星劇場で「夏子の冒険」を見たものです。
    大ヒット作品の保存が悪いことを批判されておられますが、この映画がその年(1953年度)第4位の高収入のヒット作品であったことや、ヒットしなかった作品に関わらず、保存状態が悪いのは、一つの(例えば管理の悪さ)要因ばかりではないと思います。とりわけ、戦後8年経過して、カラー映画を作るほど、この作品に期待をかけた映画ですから、保存の仕方が悪いと制作者を批判するのは少し違うのではないでしょうか?

    次に、「ヒロインの相手が若原雅夫と言うのがあんまりな気がする」と言うのはどういうことでしょうか? 私は、あまりよく知りませんが、若原雅夫の熱演にとても好感をもち、これまで見た映画の中で、最高に自分の芸を発揮できた作品だと思いました。更に、監督は中村登ですが、監督は、それまでに若原を「旅路」「夢見る人々」(以上1953)、「奥様に御用心」「春の潮(前・後篇)」(以上1950)などで若原を使い、くせのない俳優として気に入り抜擢されていましたから、この映画の選考でも、彼が適役と認めておられたはずです。(それ以前の若原は大映所属だったため、採用される機会がなかったと思われます。)
    更に、何故か「鶴田浩二にするべきだった」と書かれていますが、理由は何ですか?文学的作品を多く撮られる中村監督は、鶴田を一度も使ったことがなかったでしょうし、鶴田のことは考えになかったでしょう。彼は戦争関係の映画やサラリーマン役を演じていましたが、このような作品には向いていないと思います。

    最後の数行部分は、単に映画の説明に終わり、評論家としてのまとめがなかったのは、ちょっと残念でした。

  2. コメントありがとうございます。
    保存状態の悪さについて、他の理由があったのではとは何でしょうか。
    戦前の松竹の最大のヒット映画『愛染かつら』も保存がひどくて、完全版はありません。
    現存するのは、戦後適当に編集した総集編だけです。
    本当にひどいではないですか。

    若原雅夫については、特に言うべきことはありませんが、まあ「大根役者」の典型と言われていて、ここでも木偶の棒状態ですね。
    私は、世評に反し鶴田はくさいが、芝居は上手いと思っています。特に相手役に合わせる芝居のできる役者だと思います。

    最後は、他に言うべきことがなかったためです。

  3. 那須の細道 より:

    さすらい日乗様、私のような素人が口を挟むのは気が引けますが、まったく貴方と同じ印象を持ちましたので書かせていただきます。
    角梨枝子は新東宝映画とテレビで良く知っております。木暮実千代を小粒にした感じとでも言いましょうか。彼女がカラー第二弾のヒロイン?相手が若原雅夫?これ松竹の勝負作?等、とまどいながら見始めました。若原雅夫のあまりの表情のなさに驚き、逆に最後まで目が釘付けになってしまいました。木偶の坊状態と表現されていますが言い得て妙といわざるを得ません。でもこれが二枚目スター俳優だったら先が見えてしまい、甘いロマンスに堕ちていたかも知れませんし、ワキで出ている高橋貞二だったら「野性的で木訥」のイメージではないのでこれでいいのかと自分を納得させて見ていました。
    それにしても・・・。
    映画は映像遺産です。ご指摘の通り、管理・保存の悪さが批判されても仕方ないでしょう。
    でも、欠損部分が多く、本来なら公開・放送出来る状態ではないのに、あえて字幕等で補い放送した松竹の英断は評価したいと思います。なぜなら、軽い恋愛コメディではありますが、しっかりしたテーマ性を持ち、爽やかな感動を感じられる作品を見ることが出来たからです。