1966年10月に増村保造の『赤い天使』を見るために川崎中央映画に行って偶然見たら、大変な出来でびっくりした映画。その時に、安田公義という監督の名も憶えた。
安田は、大映京都で山中貞雄や稲垣浩に師事した人で、太平洋美術学校を出ていて、コンテは非常に上手い方だった。
だが、安田は、森一生、田中徳三らと同様で、二番作、三番作目の監督で、一番作では『大魔神』だけだと思う。
製紙会社社長の娘の安田道代は、父の金を使って高価な絵を購入したことから、小樽にある社の別荘に流されてしまう。管理人のおばさんは、文学座の北城真紀子。
愛犬を連れて散歩に出ると大型犬を連れた女江波杏子に会い、彼女の犬に脅され、安田は商売女風の江波に強い反感を抱く。
北城に聞くと、男が時々来るそうだが、ある日、中年の男神田隆が来ているのを望遠鏡で覗く。
だが、その男が居なくなった後、そこに若い男が来ているのを見る。その夜、北城は家庭の事情で別荘を去り、一人で残された夜、銃声が3発聞こえる。
おそるおそる江波の家の方を覗くが、その時、安田の背中に猟銃の銃口が当たる。
若者は石立鉄男で、彼は厩舎の馬丁の見習いで、江波の恋人だったが、彼女は石立を振って社長の神田に乗り換え、口論の末に猟銃で射殺したのだ。
金持ちの令嬢と貧乏人の子という設定で、この二人がどうなるかだが、捜査に来た刑事宇津井健への反感から、安田は石立を家に隠し、次第に惹かれていき、ついには「好きよ・・・」と言うまでになり、偶然北城が石立を見てしまった時は、
「私の恋人よ、父や母には黙っていてね」と言い、
北城も「私もそんなに野暮じゃありませんよ」と答える。
北城と石立は、共に文学座で、父親も青年座の有馬昌彦と結構新劇の役者を使っている。
最後、宇津井の地道な捜査で石立の犯行であることが分かり、別壮は警官に取り巻かれ、石立は自分で猟銃の引き金に手を掛けて死んでしまう。
その時安田が思ったのは、「殺人者は警察だ」
50年ぶりに見て思ったのは、安田と石立以外にほとんど役者は出ていないと記憶していたが、大映京都の役者が多数出ていた。
石立は適役だと思うが、安田はやや疑問を感じた。この役は、深窓の令嬢で、世間をまったくしらない純情な少女だが、安田の豊満な肉体が役を裏切っている。
安田で良かったのは、陸上競技選手を演じる増村監督の『セックス・チェック 第二の性』だと思う。
シネマヴェーラ渋谷