脚本長谷川公之、監督村山新治。
役者は神田隆、花沢特衛、堀雄二、山本麟一、南広らのメンバー。スター不在の東映東京の名物シリーズ。いわゆる刑事物のはしり(堀はテレビの『七人の刑事』でも刑事)であり、実質的な第一作『終電車の死美人』の監督小林恒夫は、東宝で黒澤明の助監督でもあり、このシリーズは明らかに黒澤の『野良犬』の影響を受けている。
話は、アパート(渋谷・桜ヶ丘あたりらしく、このアパートは『泥だらけの純情』で浜田光夫が住んでいるのと同じ)で独身女性が殺される。30歳、婚期を逃したオールド・ミス。同僚・東恵美子や同世代の男女の生態が描かれる。同じビルの独身サラリーマンに木村功や成瀬昌彦、犯人にだまされていた女性に杉山徳子など、新劇系が多数出ている。
長谷川公之は、警視庁鑑識課職員からシナリオ・ライターになった人で、刑事物の他、江波杏子主演の『女賭博師』シリーズも書いた。
東映東京の現代劇は泥臭く、垢抜けないところがあり、そこに妙にリアリティとユーモアがあった。アリバイを追求された木村がエレベーター・ガール(昔は必ずいた)との情事を告白するところや嘘の証言をした星美智子が旦那との関係を言うところが実におかしい。
村山新治は、増村保造、岡本喜八、中平康らと並び称された新鋭監督だったが、なんでも撮るのが災いしたのか、あまり大成しなかった。大原麗子や梅宮辰夫らが主演していた「夜の青春」や「夜の歌謡」シリーズも随分撮っていて、皆水準作だったが。
映画の中で、サラリーマンが昼休みに屋上でバレー・ボールやバドミントン、アコーデオンで「歌声」をやっているが、こういう風景も70年代以降ない。主人公が電話交換手というのも時代である。
結婚紹介サークル、電話喫茶、秘書箱、投資信託といった当時の新風俗が出てくる。
今夜もフィルム・センターは半分くらいの入りだった。