『ラブホテル』

1985年に故相米慎二が、デレクターズ・カンパニーで日活ロマンポルノとして作った作品。
追悼者は、相米と撮影監督の篠田昇。
物語は、事業に失敗した寺田農が、自殺の前に女を痛めつけ無理心中しようとホテトル嬢を呼ぶ。
若い速水典子が来る。寺田はやさしく速水に目をつぶらせ、「良いものあげるから手を出して」と手を出させる。
と、いきなり手錠を掛け、縄で縛り、器具を使い、サディステックに暴行する。
寺田の狂気がすごい。

2年後、タクシー運転手になった寺田は速水を探し、ファッション会社OLになった速水と再会する。
速水は会社の上司の益富信孝と不倫関係にあり、ばれて奥さんの中川梨絵に怒鳴り込まれ会社をクビになる。
速水は寺田とよりを戻すが、二人は普通の関係ではできず、昔のラブホテルでサド・マゾ行為でやっと快楽を得る。
だが、寺田は速水とは生活できず、愛人・志水季里子と一緒になることを示唆して終わる。

ロマンポルノであり、セックス映画だが、この寺田と速水の関係はむしろ「純愛映画」のように見える。
それは、脚本の石井隆の性でもあり、監督の相米の資質でもある。
速水が最初に出てくるときの名は、「夕美(ゆみ)」であるが、これは石井の『天使のはらわた』シリーズのヒロイン名美(なみ)を連想させる。

石井作品で、女はいたぶられ、傷つけられるが、実は男から常に異常に憧れ、慕われる存在である。
実にその心情は過度に純情なのである。
あれを純情映画と言わずして、どこに純情映画があろうか。
このでも、純情中年の寺田にとって、自殺から救ってくれた速水は「天使」なのだ。
再三、彼は速水に「君は天使だ」と告白する。
だが、天使は架空の存在であり、日常には生存できない。
だから、寺田と速水は一緒に生活できず、二人は別れる。

1985年という、まさにバブル直前だが、速水のファッションがバブル時代的で懐かしい。速水は、確かモデル出身で、台詞はぶっきらぼうだが、ファッション業界という先端的な女性をよく出している。あの時代の感じがする。

篠田の撮影は、手持ちカメラのように自由だが、最後にタイトルを見るとパナビジョンだった。
パナビジョンも手持ちのように撮れるのだろうか。それとも、一部は別の撮影機材で撮ったのだろうか。
ディレ・カンもパナビジョンとは、随分金があったのか。それとも、彼らは機材は持っていなかったはずなので、どうせレンタルするならとパナビジョンにしたのか。
パナビジョンの良さはあまり感じられなかったが。

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