『アリサ ヒトから人間への記録』と『あなたはシルック』を見る。追悼されているのは、前者の撮影の山本駿、後者の監督の小松範任である。
前者は、さくらんぼという保育園の記録で、アリサという活発な女子を中心とした園の子供たちの長期記録。
これを見ると、森繁久彌が「子供と動物とは共演したくない」と言った理由がよくわかる。
どの子も、表情、動作が個性的で魅力的で自然であり、職業的役者の演技が叶うものではない。
1歳前後から6歳の卒園までがきちんと捉えられていて魅力的である。
場所は、言葉や服装から見れば首都圏だが、遠景には山が見えるので埼玉あたりだと思うと、川越のようだ。
卒園式では、軽い障害を持った男子も無事卒園していくのは、実に感動的。
ナレーションは、ふじたあさやと河内桃子。
撮影の山本駿は、監督山本薩夫の長男で大映にいて、次男の山本洋と共に大映の再建に当たり、その後は独立プロ作品の上映をやって来て、私もあるイベントでお会いし、新宿で飲んだことがある。
山本薩夫は、松竹から成瀬巳喜男に付いてPCLに移籍した人で、東宝争議以後、左翼独立プロで活躍したが、晩年は日活、東宝、松竹等で大作映画の監督として、娯楽映画を作った。それは、晩年は身内としか映画を作れなかった黒澤明とは対照的である。
昔、日活の『戦争と人間・第二部』に出たことのある男優と話したことがある。
彼はある夜、山本監督を始め、北大路欣也などと飲んだ。すると彼は、翌日から北大路の近くの画面に配置されるようになったとのこと。
これは、山本薩夫の人間的付き合いの柔軟さと幅の広さを物語っていると思う。こうした柔軟性が、山本が映画各社で作品が作れた理由だと思う。
『あなたはシルック』は、小松監督作品で、東洋レーヨンの製品「シルック」をPRする作品で、美男美女のモデルによる映画詩。
小松は、映像の世界の労働運動にも関わった人と聞いていたが、極めて美学的な作品なのには少々驚く。また、1968年だが、この頃が企業PR映画製作の最後だったなあと思う。
国立映画アーカイブ