『黒澤明VSハリウッド』 田草川弘

随分前に買った本をやっと読んだ。
黒澤が、『トラ、トラ、トラ』でハリウッドの20世紀フォックスと共同し、そして失敗する経過である。
内容については、白井佳夫が編集した『黒澤明集成』や文庫版の『異説・黒澤明の』に出ているものと比べも、最後は保険会社の「キャスティング保険」に行き着くのも、新しいものではない。
ただ、アメリカ側の資料により、すべてが詳述されているのがすごい。
日本、黒澤プロダクションに何も資料がないのに対して、アメリカにはすべての報告書、一次資料がある。
この辺のものの作り方、また資料の整理、収拾、保存、公開の仕方は、本当に格段の差がある。

前にも書いたことがあるが、戦時中の日本の対米謀略放送『東京ローズ』について、日本にはほとんど資料がないが、アメリカはそのすべてをレコードに録音していて、なんと1970年代にLPにまでなっている。

この黒澤が世界進出しようとして失敗するのは、戦後から現在までの日本企業が辿った道の一つと同じである。
ソニーやホンダ、カップ・ラーメンの日清食品は成功して、なぜ黒澤プロダクションは失敗したのか、大いに考えるべき問題である。
それは、映画が単なる商品ではなく、言語を媒介とする文化だと言うことに尽きるのだろう。

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