監督の松尾昭典は結構良いと思ったのは、後にベストセラー作家となる森村桂原作、吉永小百合主演の『私、違っているかしら』を見た時だった。
早稲田の映画研究会の1年上の宮島さんにそのことを言うと、かなり怪訝な顔をされたが。
その後、松尾作品では、『夜霧の慕情』『二人の世界』『泣かせるぜ』などのムード・アクション作品も、とても優れたもので後期日活の優秀監督の一人だと思う。
その他、高橋英樹の人気シリーズ『男の紋章』も彼の手によるもので、舛田利雄と並び、多彩な才能のある監督だったと思う。
その中でも一番得意なのが、サスペンスもので、これには『人間狩り』があり、この1959年の『ゆがんだ月』もサスペンスものである。
神戸で暴力団の手下の高原駿雄がピストルで殺され、その現場に三下の長門裕之は目撃していた。
真犯人は、兄貴分の梅野泰靖で、高原が組をやめようとしたからだった。
自分が可愛い長門は、組長三島雅夫らの言うことに従ってるが、高原の葬儀のとき、東京から妹の芦川いづみが神戸に来た時、彼女に真実を話してしまう。
そして、彼は東京に逃げてくる。
新聞記者が大坂志郎で、神戸で長門の面倒を見ていたが、東京には同じ記者の兄がいて、そこを頼って行く。大坂志郎は二役で演じるのがおかしい。
長門は、新宿のバーにバーテンで働くが、そこには神戸で同棲していた女の南田洋子も追いかけてくる。
それは良いが、ある日突然、「お前を殺しに来た」と凄味のある神山繁が長門の前に現れる。
この時期、神山は殺し屋役が多く、三島由紀夫主演、増村保造監督の『空っ風野郎』でも三島を殺す殺し屋は、彼である。
そして、この新宿のバーなどの女をめぐって麻薬タバコを吸わせて中毒患者にして、香港に売り飛ばす連中が暴かれる。
勿論、長門と大坂らの活躍で事件は解決される。
長門は、芦川が住んでいる千住あたりの貧困な長屋に行くと、彼女の許婚で赤木圭一郎に紹介される。
千住の長屋は実景らしく、この時期はまだ戦前からのような木賃住宅が密集した地域があったのだ。
また、その近くに長いレンガ塀の道が出てくるが、これは、石原裕次郎と浅丘ルリ子の名作『赤いハンカチ』で、浅丘ルリ子が住んでいる町の路地として出てきたものと同じだと思う。
サスペンス映画の佳作で、撮影は姫田真佐久だったのは、さすが。
組長の三島雅夫はじめ、手下の梅野泰靖、麻薬売人の下元勉、殺し屋神山繁と全部悪人は、俳優座、民芸、文学座の新劇役者なのがおかしい。
阿佐ヶ谷ラピュタ