井上ひさしの新作『組曲虐殺』を品川のアート・スフィアで見る。
『蟹工船』のプロレタリア文学者小林多喜二が逮捕されて殺されるまでである。
妻の神野三鈴、恋人石原さとみ、姉高畑淳子、さらに特高刑事の山崎一、山本龍一との関わりによって描かれる。
大変面白く、とてもよくできていた。
小林多喜二役は、井上芳雄で、演技が自然で、歌も上手いのには大変感心した。
今まで、「井上ひさしの芝居は凄いが、歌と音楽は必要ないのでは」と思っていた。だが、今回の音楽はとても良かった。
音楽はいつもの宇野誠一郎ではなく、ジャズ・ピアニストの小曽根実で、クルト・ワイル、林光風で抒情的な作品だった。
最後、多喜二は捕まり、残虐な暴行で死んでしまう。
なぜ、彼はそこまで警察から憎まれたのだろうか。
当時の共産党の指導者で、虐殺までされたのは彼ぐらいだ。
多分、プロレタリア文学の花形という、時代のヒーローであり、その上に妻、恋人、姉の三人の女性から心底庇護され、愛されたことに象徴されるように、大変女性に愛されたからだろうと思う。
そして、思い出したのは、南アフリカの黒人解放運動指導者で、白人政府に虐殺されたスティーブン・ビコである。イギリスのロック・ミュージシャン、ピーター・ゲイブリエルが『ビコ』として歌った、あのビコである。
彼も、女性に大変やさしく、もてたので、白人の憎しみを買い、狙われて殺されたと言われている。『ビコ』は、彼が監獄で死んでいるところの描写から始まる。
日本でも、大正時代のアナーキスト大杉栄は、大変なフェミニストで、女性にもてもてだったので、官憲の恨みを買い、虐殺されたと言われている。
そもそも複数の女性と関係すること自体が、天皇制国家では淳風美俗に反する行為だった。
女性に持てる方は、是非とも用心されることを。
コメント
Unknown
井上ひさしの舞台は確かに面白いですね。
平田オリザ、なるほど、面白い舞台を見たことがありません。
地方に蟄居しており、今回の舞台を観ていないのですが、音楽も林光のようだと興味が沸きます。
以前のルヴォーの宮沢りえも、まったく同感でした。
南田洋子プロデュサー論は初めて知りました。