『消えた横浜娼婦たち』

作者の檀原照和さんは、アフリカやラテンの舞踊、音楽、特に呪術の専門家で、日本で唯一の本である『ヴードゥー大全』(夏目書房)を出されている。
檀原さんとは、昨年5月に横浜で「アフリカ開発会議」が開催されたとき、金沢区で関連イベントとして「アフリカ講座」をやったときに「『やし酒飲み』の世界」という講座をやってもらい、知り合った。
その彼が出したのが、幕末から最近までの横浜の中心部と、そこで生きた娼婦たちの物語である。
データーハウス、1,700円

表題からは、相当にきわどい内容を想像するが、中身は大変真面目で、よく調べ、調査した内容になっている。
特に、昭和初期の娼婦メリケンお浜、さらに映画にもなったメリーさんが中心になっている。
そして、最後は黄金町の、「ちょんの間」にいた外国人娼婦たちの詳細な記録である。黄金町と言えば、黒澤明の映画『天国と地獄』の麻薬地帯として有名だが、黄金町が麻薬地帯だったのも、実は昭和30年代のほんの数年間であったことも実証されている。
私には、鈴木清順の『密航ゼロライン』で見た、大岡川の河口にあったホテル船だが、これも昭和35年ごろにはなくなったのではとされている。私は、1964年の東京オリンピックのためのクリアランスでなくなったのではと思っているが。
そして、近年は外国人の買春街となった黄金町。最盛期は、15年前くらいで、伊勢佐木町から、日の出町駅前当たりまで、ルーマニア、ロシアなどの白人娼婦が多数いた。

今や、スラム・クリアランスを目指す神奈川県の松沢知事、横浜市の中田前市長らの「お陰」で、黄金町から外国人娼婦は一掃されてしまった。だが、彼女たちは日本からすべていなくなったわけではなく、北関東に移動したそうだ。
なんてばかばかしいことをやったのだろう。

しかし、なぜ彼ら松下政経塾出身者は、スラム・クリアランスが好きなのだろうか。東京杉並区の山田区長も「良い国作る」などときれいな地域を目指しているようだ。
だが、1960年代末の東映のヤクザ映画では、こうしたスラム・クリアランスする安倍徹、金子信夫、天津敏ら悪役は、近代ヤクザで、貧民が生計を立てているスラムを壊して近代的なビルを作ろうとする。
だが、そこに高倉健、鶴田浩二らの着流しヤクザが来て、近代ヤクザのインチキ性を暴き、最後は卑怯な安倍徹らの本拠に殴り込み切ってしまう。
松沢知事や中田前市長らは、安倍徹のような近代ヤクザなのだろうか。
いつか彼らを切る高倉健は現れるのだろうか。

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コメント

  1. 神奈川新聞で紹介されました

    拙著『消えた横浜娼婦たち』が8月9日づけの神奈川新聞の書評で紹介されました。
    8面の「かながわの本」という場所です。