『紅の流れ星』

以前、私は2011年に次のように書いた。千野監督の映画『密約』を見て詰まらなかった後である。

さて、舛田の『紅の流れ星』は、よく知られているように舛田の監督作品、石原裕次郎主演の『赤い波止場』のリメークであり、神戸を舞台にしている。だが、日活後期で、予算が不足していたのだろう、本当に神戸に行ったと思われるのは、主演の渡哲也、浅丘ルリ子、松尾嘉代ら数人であり、杉良太郎以下のチンピラは、横浜ロケで済ましている。ノートを見ると、この映画は1967年10月に新宿国際で、鍛冶昇の『東京ナイト』、江崎実生の『マカオの竜』との3本立てで見ている。

『紅の流れ星』で、ともかく驚いたのが、木村威夫の美術のセンスと、全体に漂うクールな感じだった。ここでも、当時流行していたジェンカが出てくるが、ディスコでのアクション・シーンが終わった後に、渡がその場を鎮めるように踊りだすと言うもので、実に自然でカッコ良かった。先日見た、『君が青春のとき』のラスト・シーンでの芸のなさとは大違いだった。その音楽もブラスが強調されていて、歌声的には聞こえない。
台詞が大変洒落ていて、随分遊んでいる感じだったが、今見ても相当にキザ。浅丘の婚約者で、実は暴力団の密輸品の宝石を手を出していたインチキ男が山田真二、杉良太郎の恋人に奥村チヨと配役も斬新だった。中盤での渡哲也を、東京から殺しに来た宍戸錠と渡との格闘シーンもさすがに迫力がある。宍戸もまだ若かったのだ、今では到底できないアクションである。鏑木創の音楽が実にクールで映像にぴったりしている。冒頭で、今はなき横浜の新港埠頭を走っていた臨港線や屋根の付いた荷捌き場が出てくるのが、今では貴重な映像である。

今回、木村威夫特集で50年ぶりに映画館で見たわけだが、やはり傑作だと思った。その証拠に、終了後、拍手が起きたのだから。今回見て、横浜を神戸の代わりに使っているのがもう一つ分かった。渡が、ルリ子と彷徨する中で、不思議なバックに外観の学校があるが、多分横浜のフェリス女学院だと思う。また、山田真二を探すために二人は港近くを歩くが、そこは大桟橋入り口の元臨港線があった高架下である。このインチキ男の美男子の山田真二は非常な適役だったが、他にも同じくインチキ新聞の記者の谷村昌彦も良かった。

渡哲也は、第二の石原裕次郎で、『陽の当たる坂道』『嵐を呼ぶ男』などをリメイクしたが、上手くいかなかった。裕次郎のような明るさがないからである。それに対し、この映画での渡は、ニヒルで適役だった。このゴロウは、後の『人斬り五郎』シリーズとして大ヒットする。スターは、適役でないとヒットしないという好例である。

国立映画アーカイブ

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