ラピュタで『愛染かつら』で大笑いした後に見たのが、この良心作。
昭和20年8月の長崎の原爆で亡くなった永井隆博士の話、藤山一郎が歌う『長崎の鐘』の原作である。
長崎の医大を卒業した永井(若原雅夫)は、中耳炎で耳が不自由になったので、聴診器を使わないレントゲン科に転科する。
そこは、他の科目に比べて後塵を拝していて、女子用のトイレもない始末。
だが、部長滝沢修の指導もあり、永井は次第にレントゲン科に没入していく。
そして、下宿の娘月丘夢路と結婚する。
彼女や、父親高堂国典らは、浦上のカソリックで、戦争から戻ってきたとき、永井もカソリックになる。神父は俳優座の創立者の一人の名優青山杉作で、力強い説教がさすがである。
二人の子が生まれ、夫婦には幸せな日々だったが、長崎の原爆投下がすべてを破壊する。
月丘は、倒壊した家の下敷きで死に、永井も原爆病に倒れる。
もともとレントゲンを使用していて、脾臓に疾患を得ていたが、完全な白血病になったのだ。
幼い二人の子を残して死ねないとの永井だが、最後は死んでしまう。
だが、大庭秀雄は、大島渚によれば、松竹大船で最高のインテリであるので、声高に原爆反対も叫ばないが、実に淡々と平凡な生活の幸福を破壊する原爆と戦争の恐ろしさを描いて、最後は涙を誘っている。
昭和25年にこれだけの冷静で、公平な原爆映画を作れた松竹大船の底力はすごいと思う。
脚本は、新藤謙人のほか、「わたおにおばさん」橋田寿賀子。
今生きているスタッフ・キャストは、多分新藤と橋田のほか、月丘夢路、さらに看護婦役の津島恵子くらいだろう。
阿佐ヶ谷ラピュタ