『ことぶき座』

昭和20年6月に公開された松竹京都作品、主演は高田浩吉と高峰三枝子、桑野通子もクレジットされているが、出番はほんの少しで、高田と高峰の主演映画である。
結論から言えば、先日に愚作『家庭の幸福』を見た監督原研吉にしては、はるかに良い映画である。
話は、浪曲師の高田と大事業家小杉勇の娘高峰の恋物語。ことぶき座とは、小杉が持っている芝居小屋の名前。
冒頭で高田が、森の石松を語っているが、声は明らかに広沢虎蔵で、彼自身も高田の師匠で出てくる。
釧路で芸人としてくすぼっていた高田は、政略結婚で高峰が若手実業家と結婚した傷心から、東京に戻って広沢のところで再度修業し、一人前になる。
ここでは、高田もッ浪曲を披露するが、もともと美声なので上手に虎蔵節を真似ているのは、さすが。昔の役者は芸がある。

戦時中の慰問公演で釧路に高田の一行は行き、思い出のことぶき座を訪れる。
小杉は事業に失敗し零落して軍需工場になったことぶき座の事務員になっている。また、高峰もかつて小杉が持っていた牧場で働いている。

この辺は、満州事変から戦時下の経済社会の激変の中で没落した事業家と戦時景気の中で「成り上がった芸人」の対比を描いていて面白い。
皮肉なことだが、戦時中は軍や国の慰問公演等で、芸能人は職が確保・拡大していたのである。
高田と高峰は結ばれることを示唆して終わる。

全体に筋のつながりが性急で、タイトルも松竹のクレジットのバックには音楽が流れるが、スタッフ・キャストのタイトルになると無音になる。
多分、戦時中に作られたものを戦後、再編集し、その際に戦意高揚的な部分をカットして公開されたときのフィルムなのではないかと思う。
例えば、タイトルの次には陸軍省推薦等の文字があり、戦後はまずいので省略したのではないか。
撮りかたとしては、さすがに小津安二郎の助監督だけあって、主役の正面からのアップを沢山撮っているのは良いと思う。
戦後の原研吉とはかなり違うのではないかと言う気がした。
衛星劇場

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