『女は二度生まれる』

1961年の大映作品で、主演はもちろん若尾文子、監督は川島雄三、脚本は川島と井手俊郎だが、川島と井手には、東宝とタイトルで出る、この時期川島は東宝の専属だったが、それは彼を買う藤本真澄の差配だろう。

今村昌平が、松竹大船撮影所で川島雄三の下にいたとき、

「なんでこんなくだらない映画を作るのですか」と聞くと、「金のためです」と即答したそうだ。川島は、「祇園に居続け1か月」など贅沢でダンディな生活をおくっていたので、その金のために東宝、大映等の各社で娯楽映画を撮っていたわけだ。

川島雄三と言えば、『幕末太陽伝』とくるが、あれは今村以下の日活のスタッフ、キャストの力であり、川島単独の能力ではないと思う。

九段で芸者をやっている若尾文子は、建築士の山村聰、ブローカーの山茶花究、代議士の上田吉二郎、寿司屋の板前のフランキー堺らと次々と関係を持つ。それが彼女の商売だからで、それになんの拘りもない。

九段なので、靖国神社が出て来て、「神聖な社」の近くで性交が行われているというのは川島らしい皮肉である。

すでに売春防止法ができていて、誰かは不明だが、置屋の女将と若尾のおえんは、警察に上げられる。

もう芸者の時代ではないと、若尾は、辞めて新宿のキャバレーに行くが、そこで山村と再会し、彼の二号になることにする。山村の子分の大工の潮万太郎は、若尾を「渋谷の奥様」とよぶ。

木造アパートには、大学生の江波杏子らがいて、その向こう側がトルコ風呂で、ショートパンツ姿の女も見える。

映画を見に行って、河岸の小僧の高見国一と出来心でできてしまったのを知って、山村ひどく怒る。この映画館は、大映のではなく、今はない有楽町の松竹ピカデリーのようにみえる。

だが、二号としてのささやかな幸福の中、突然に山村聰が十二指腸潰瘍で吐血入院してしまい、さらに急死してしまうので、若尾は仕方なく芸者に戻る。

その置屋に、本妻の山岡久乃が怒鳴り込んでくる。山村が若尾にあげたはずのヒスイの指輪を返せと言うのだ。

山岡は、先日見た木村恵吾監督の『ある関係』でも、冷たくて激怒する本妻を演じていた。だが、彼女は後にテレビでは、やさしくて気配りのお母さん役を演じたが、どちらが本当だったのか。彼女の実像はテレビの方だったようで、映画での嫌な本妻は、彼女の演技となるのだろう。

最後、再び映画館で高見と再会した若尾は、彼と上高地に行く。そこで、寿司屋を突然辞めて、信州のワサビ屋の出戻り女と結婚したフランキー堺の幸福な家庭人姿を見る。

結局は、芸者に戻るしかないことを示唆して終わる。

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コメント

  1. 月の罠 より:

    劇中の映画館は渋谷の東急文化会館1階にあった渋谷パンテオンです。
    有楽町にあったのは丸の内ピカデリー。
    ラストは、女は結局死んでしまうのではないかと思った。
    それではまるで『花影』ですが。

  2. ご指摘ありがとうございます。
    渋谷のパンテオンは、大晦日にクリントイーストウッドの映画を見るためによく行きましたが、二階に上がる階段はあったかな。1970年代はなかったように思いますが、1961年にはあったのでしょうか。
    確かに小えんが住んでいるのは渋谷なので、パンテオンでしょうかね。

  3. 月の罠 より:

    2階は指定席だったので、上がる機会はあまりなかった。
    この映画私も最近久しぶりに観たのですが、ロビーや階段などパンテオンが匂うように懐かしかった。
    昭和52年の正月映画でクリント・イーストウッド主演の『ダーティーハリー3』をここで観ました。
    小えんが住んでいるのは円山町から神泉にいたるあたりですかね。
    なんとなく、そう思えるたたずまいでした。

  4. パンテオンの指定席は行ったことがありませでした。
    小えんのアパートは、円山町あたりでしょうね、トルコ風呂もあの辺にはあったので、その女性たちも見えたのでしょうね。
    その辺の風俗性も非常に細かく描写されていますね。