期待していなかったが、これは拾いものだった。
原作は、梅崎春生で、シナリオは松木ひろし、監督は川崎徹広。
東京の外れ、多摩(府中らしい)に住んでいる売れない小説家・上原謙と妻沢村貞子を中心に、同じ地主の地所に住んでいる飯田蝶子と下宿人で画家の卵藤木孝、子沢山の若水ヤエ子と丘寵児夫妻、さらに駅前の喫茶店主草笛光子と妹若林映子らの喜劇。
冒頭に上原が出版社に稿料を貰いに来ると、大藪春彦をモデルにしたらしい若い作家が大げさなポーズで写真を撮らせているが、黒人風の風貌から見て監督の西村潔のように見えたが、そうだろうか。
飯田蝶子、上原兼、沢村貞子、草笛光子、渡辺篤史ら、当時すでに隅に押しやられつつあった脇の役者を上手く使って、存分に能力を発揮させている。
借地人の上原らを、中国人の有木三太が、ラーメン屋のトニー・谷を使って追い出そうとしているのが、話の中心になる。
飯田とトニーのやりとりも大変面白い。
トニー・谷は、『おそまつ君』のイヤミのモデルだが、嫌味な人間を演じると本当にピッタリ。
藤木の恋人が、若林映子で、二人の関係もドライなタッチで描き、自転車に乗った若林を橋の下から撮って、風でスカートが上がってパンツ丸見えのサービス・ショットもある。
勿論、藤木は、ジャズ喫茶で歌う。
最後は、飯田蝶子は息子佐田豊のところに引き取られ、若水・丘一家は、夜逃げのように去り、上原夫婦も引越して行き、若い二人がオートバイで去るところでエンド・マーク。
全体に、感じとしては、ほぼ同時期に公開された川島雄三監督の『青べか物語』に似た、ローカル・カラーの不思議な連中の喜劇である。
なかなか上手くまとめていると思うが、この程度では、東宝でも監督として生き残れなくなっていたのだろう、川崎監督は、東宝を辞めて文化映画の方に行ったらしい。
ラピュタ阿佐ヶ谷
コメント
『豚と金魚』
私、観たかったんですよ、この映画。封切り当時小学生でしたけれども、雑誌やポスターを見て、直感的にああこれは面白い映画だと思いました。でも観られませんでした。そのまま現在に至っていますが、思い出す度にあれは面白い映画だったはずだと思っていました。久松静児の「おいろけ説法」もそうです。豊田四郎の「駅前旅館」や今村昌平の「果てしなき欲望」もそうですが、昭和30年代の大手映画会社で製作された、多くカラー・シネマスコープによる風俗喜劇映画には、再評価すべききらりとした作品が多いようですね。当時の世相や庶民の生活感を生き生きととらえていて、今観ても懐古を超えた感銘があるのではないでしょうか。
今の「Always 三丁目の夕日」のようなものは、人工化石のような感じで、私としてはどうも抵抗があります。