鉄眼は、黄檗宗の僧侶で、江戸時代の初期に「一切経」(『大蔵経』)を日本で初めて版木に彫り、布教に尽力した偉人だそうだ。
この映画は、熊本の人の金で作られ、彼を偉人と崇める人たちなので、鉄眼の人間としての悩みや迷いが描かれず、結果として表面的なものになっている。
この作品では製作となっているが、実際は森園忠氏から当初は「記録だけで良いから」とスクリプターの中尾寿美子は請われて、夏休みに撮影現場に行った。
だが、監督の中村佳厨王が上手く撮れず立ち往生するので、後半部分は、中尾寿美子が監督して撮影したのだそうである。
因みに中尾寿美子は、今井正作品で有名なカメラマン中尾駿一郎の妹で、東宝に戦後入った後、大ストラキでクビになり、兄らと共に独立プロ作品で活躍された。
金を出した方は、「偉人伝」にしたがり、脚本の片岡薫や中尾たちは、「それでは映画にならない」との争いで、なかなか収拾がつかなかったそうだ。
その結果、主演の河原崎次郎がただウロウロしているというものになっている。
鉄眼を慕う恋人役が、当時日活ロマン・ポルノで人気のあった永島映子で、さすがに色っぽい。
これでなびかない鉄眼は、まさに朴念仁で、私なら托鉢や版木作りなどすぐに放り出して、永島と一緒になる。
結構美しい場面もあるが、バックの音楽がひどくチープで白ける。
ここは、映画『砂の器』の親子の放浪シーンのように、大げさな管弦楽で十分に泣かせて欲しいところである。
その他、新劇や独立系の役者が多数出ているが、中国人僧侶役で水島道太郎が出ている。
だが、一番の見所は、細川護煕お殿様が、本当にお殿様として出ていることで、この人は中村雅俊に良く似ている。
今後、細川護煕を主人公にした再現映像を作るときは、中村雅俊が演じるとピッタリだろう。
京浜蒲田の中古ビデオ店で安価に購入。