長谷川伸が1963年に亡くなって50年とのことで、横浜でいろんなイベントが行われているが、8日野毛のにぎわい座で落語と節劇が上演された。
落語は、桃月庵白酒の『強情灸』、峰の灸の話で、昔は磯子の峯にお灸所があったようだが、今はない。
江ノ電と市営バスで「氷取沢・峯行」が残るのみだろう。
にぎわい座の館主の桂歌丸は、横浜と長谷川伸、歌丸の師匠古今亭今輔が若い頃長谷川の世話になったこと、長谷川には落語の作はないことなど。
中入り後は、お目当ての節劇で、浅草21世紀の連中によるもの。
節劇とは、簡単に言えば、歌舞伎・文楽の浄瑠璃語りを浪花節でするもので、戦前から戦後にかけ、大衆演劇では大変に人気のあったジャンルである。
長谷川伸の『瞼の母』の忠太郎とお浜の再会劇だが、何度見てもよくできているのに感心する。
そして、新国劇からサイレント時代の片岡千恵蔵主演作、加藤泰監督、中村錦之助主演の『瞼の母』に至るまで名作は数多くある。
だが、これを基にした意外な現代劇もあり、それは井上梅次監督、石原裕次郎主演の日活映画『嵐を呼ぶ男』なのである。
井上が脚本の西島大とホテルで缶詰になっていると、プロデューサーの児井英男が現れ、
「長谷川伸を入れてください」と強く言ったそうで、彼の指示の通り、ジャズの裕次郎は、クラシックの弟青山恭二を偏愛する母高野由美にひどく疎まれる。
井上と西島は、大変当惑したそうだが、児井英男の言うとおり、裕次郎を母親に理解されない不幸な兄にした。
公開すると、裕次郎が可愛そうだと泣く女性ファンが続出したそうで、児井の狙いは的中したのである。
『瞼の母』で、忠太郎を嫌い、妹お登勢を偏愛する母親のお浜は、高野由美と石原裕次郎、青山恭二の関係に上手く置き換えられている。
名作は、さまざに変換できるという例であろう。
横浜にぎわい座