稀曲の会

国立劇場邦楽公演として『稀曲の会』が行われた。
稀曲とは、まれにしか演奏されない曲で、多くは面白くないもの、非常に演奏が難しいもの等で、自然と消えてしまったものだそうだが、中には何故か消えてしまった不幸な曲もあるそうだ。
例によって元国立音大の竹内道敬先生の監修で、まず新内節の『霊験宮戸川』は、岡本宮之助らで。
岡本は、その名の通り、故岡本文弥の甥の子で、話の原作者は、平賀源内。
かなり猥褻な内容で、国立劇場でやるようなお上品なものではないが、岡本に言わせれば、「下司」になってはいけないのだそうだ。

次が、この日、一番感銘を受けた薩摩琵琶、須田誠舟で『木崎原合戦』
レコードは持っているが、薩摩琵琶を実演で聴くのは初めてで、どうせつまらないと思っていたら、とてもスリリングで感動的だった。
話は、戦国時代に薩摩の島津忠平が少ない兵力で、日向の大群を破った故事で、武士道を謳うもの。
だが、須田氏の琵琶の撥さばきは、まるでジャズやロックのギターのようなフレーズの繰り返しや極弾きのような技巧を重ねて盛り上げてゆく。
武満徹が映画『怪談』で、特に『耳なし芳一』のところで、琵琶が全面的に使用されていて映画を盛り上げていたのを思い出した。

次は、一中節で、『かしく墓所の段』、竹内先生によれば一中節については、「親戚も二段まで」という言葉もあるくらい、相当に退屈なもの。
これも心中ものだが、残念ながらあまり面白くなかっが、菅野序恵美さんと三味線の菅野序枝さんは、大変お上手だった。
要は、つい最近まで一中節は、一般の公演はなく、「順興」と言って、お弟子さんの家で発表会が周り持ちで行われるシステムで、多くの観客に見てもらう芸ではなかったからだろう。
お座敷芸とはまた違うが、家元制度の芸とでも言うべきだろうか。

最後は長唄の『釣狐春乱菊』という、初代桜田治助が書いたものなのだそうだが、わずか15分分位しか、今日では残っていないのだそうで、始まったかと思うとすぐに終わる。

最後に、出演者と竹内先生との座談会があり、それぞれの師匠の稽古法など、大変面白かったが、それについては別に書く事にする。

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