地下鉄で三ノ輪まで行き、樋口一葉の一葉記念館に行く。
ここは、15年くらい前に来たのだが、いろいろ歩いて場所が分からなかったので、今回はあらかじめ地図も印刷して持っていくが、すぐに分かった。
3階と2階に展示室があり、一葉の生涯、原稿、初版本等が展示されていて、とても興味深い。
私は、日本の作家では、吉本隆明は別として、大岡昇平と樋口一葉が好きで、どちらも描写が客観的で端的であり、その上に文章にリズムがあるからである。
それは、大岡はフランスの近代詩を、一葉は短歌をやっていたからだと思う。
ついでに言えば、吉本隆明の魅力も、その文章にあり、意外にも彼の文にも独特のリズムがあるが、彼も元は詩人だった。
私が、吉本の名を最初に知ったのは、「荒地派」の詩人としてであり、後に思想家としても識り、
「あのように抒情的な詩を書く人が、このように過激な言説をするのか」と非常に驚いたものである。
さらに一葉に付いて言うならば、彼女は作家としては、真に幸運な経歴をおくっている。
萩の舎では、上流社会の人間の姿を、浅草竜泉の小間物屋家業では、都市の細民や子供の実像を見ることができた。
こうした明治社会の言わば上から下までを見る立場を獲得した作家は、その時代に彼女のほかはまずいない。
また、彼女の父は、東京府庁で裁判所の調査員のような仕事をしたこともあり、恐くは彼からも様々な話を聞いたのだろうと思う。
それは、バルザックが法廷の記録から想を得て膨大な著作をものにしたことも似ているかもしれない。
夕方、記念館を出て、千石稲荷神社に行くと彼女の石像が鎮座していたが、非常に立派で、まるで鈴木京香みたいだった。
国際通りを挟んだ竜泉寺にも行ってみたが、これは立派すぎるので、中には入らず。
駅に戻ろうとして、駅裏を行くと背面地蔵尊(うしろむきじぞうそん)がある。
いつも後ろ向きの人生を歩いている身にふさわしいと思ってお参りする。
すると早速ご利益があり、明治通りに汚いリサイクル店がある。
外に大島渚の『愛と希望の街』も300円であったが、ツタヤにあるので止す。
EP盤が無造作に置いてあったので、小泉今日子、本田恭章、寿ひずるの3枚を300円で買う。
非常に得した気になったが、この次は、三ノ輪駅の反対側の、身投げ寺の浄閑寺に行ってみたい。
帰りは、黄金町にできた公団住宅の2階の「たけうま書房」の行き、下の1階の「藍」で飲んで帰る。