ラピュタの中川信夫特集。はじめは『前篇』だけ見て、夕方はフィルム・センターの新藤兼人特集のつもりだったが、余りに前篇が面白いので、そのまま続編も見る。
主演宇津井健、北沢典子、その他池内淳子、沼田曜一はじめ新東宝スター総出演。出ていないのは、天知茂くらい。
天明の浅間山の大噴火に始まり、雷電宇津井と恋人北沢の出会い、別れ、雷電の出世を描く。その間に大名諸侯との係わりがある。まさに大名が「たにまち」だったのだ。
脚本は中川と杉本彰、原作は尾崎士郎。当時はまだ尾崎も生きていたので、多分原作に忠実だろう。
北沢がとても好演で、殊に最後に雷電が富豪の娘池内との婚約が決まり、自ら身を引く神社でのシーンが最高に良い。
歌舞伎の「愛想尽かし場」で、『鶴八鶴次郎』をはじめ様々な作品でやられているが、中川はワン・シーン・ワン・カットでやっていて、北沢も大変情熱的な演技でこたえている。
このとき、彼女は21歳。相当に上手い。
池内淳子がきれいなことにも改めて驚いた。実に色っぽい。
中川は、テンポよく撮るが、時として悠々と描く。
ユーモアと詩情が素晴らしい。
また、普通の農家の娘から宿場女郎にまで転落して行く北沢には、中川信夫の戦前の様々な中小・零細映画会社の遍歴、戦時期の中国での戦争体験等の「人生の変転」を見聞きした彼自身の思いが込められているのだろう。
単純娯楽映画だが、実に奥深い作品である。