主役は蒸気機関車だった 『裸の太陽』

かつて日本映画に労働者映画がというジャンルがあった。

左翼独立プロ作品はもとより、メジャーの東映や日活にもあり、浦山桐郎監督の『キューポラのある町』などが典型で、東宝のサラリーマン物も、ホワイトカラーの労働者映画と言えなくもない。

東映には、契約プロデューサーとして本田延三郎がいて、この人は新劇の製作者でもあったので、昨年亡くなった蜷川幸雄をはじめ、多数の新劇役者が東映東京撮影所の作品には出ている。

この作品の主人公は、国鉄の蒸気機関車の機関助手(かまたき)の江原真二郎と、繊維工場の女工の丘さとみだが、江原の仲間仲代達矢をはじめ、高津住男、高原駿男、岩崎加根子らの新劇役者が出ている。

江原真二郎とのコンビは、中原ひとみで、後に実際に二人は結婚するが、ここでは江原の恋人は丘さとみで、中原は、丘の妹になっている。丘の姉は星美智子で、彼女の夫は高原であり、要は国鉄一家である。

ロケ場所は、福島を中心としたエリアらしく、SLの大きな車庫がある市は、「峰山」と言っているが郡山機関区のようだ。さらに、江原と丘が、SLに乗って水着を買いに行く町は「はぎのみや」となっているが、宇都宮らしい。

ここでの洋品店の親父は、東宝の戦前からの俳優の柳谷寛で、これもうれしい。

監督は家城巳代治で、この人は松竹レッド・パージ組で、本来は抒情的なメロドラマ作家なのだが、撮影が宮島天皇こと宮島義勇なので、SLの撮影は非常に良く、日本映画史で最高だと言えるだろう。その意味では主役は蒸気機関車であり、宮島は、戦時中も熊谷久虎監督で戦意高揚的な作品『指導物語』を撮っている。

話は、中心は江原と丘が、互いの休みの日に、海水浴に行こうとするが上手くできないことである。この辺は黒澤明の貧しい恋人たちを描いた1947年の『素晴らしき日曜日』によく似ている。その意味では、敗戦直後と1958年頃とは日本の社会に本質的な変化はなかったということだろう。1960年代の経済の高度成長以前では大きな変化はなっかったのである。

クライマックスは、ポカ休の仲代に代わりSLに乗務した江原が、急勾配の坂道で、機関車の先頭で腹這いになって砂を落として坂を上りきるところだが、こんな風にして坂を上るとは初めて知った。

仲代は、酒と競輪におぼれている不良職員で、江原と丘が二人の結婚資金として貯金していた1万7千円を、中学の同級生の江原から借りてしまう。

当初、競輪で使ったのかと疑うが、実は昔好きだった女の岩崎加根子の夫が結核になってしまい、その治療費に貸したことが分かって、「この世には悪い人間はいない」という結論になる。

「かまたき、かまたき・・・」という奇妙なコーラスがあって参るが、音楽も芥川也寸志で、きちんとこの映画のために作った曲らしく、全体に真面目に作られている。

国鉄賛美映画は、『大いなる驀進』など東映に多く、それは社長の大川博が運輸省出身だったことのためである。

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