芝居というものは、やはり見てみないとわからない。作は北村想で、シス・カンパニーの製作なので、悪くはないはずだと思っていたが、先日は演出の小川絵梨子の性だとしても、『令嬢ジュリー』のようなひどいのもあったのだから。
ここでは、男の高橋克美は、前の『グッド・バイ』で良かったが、風間俊介というのは、タレントだろうと思い、少々不安だったのだ。だが、それは若い女の趣里と共に、杞憂だった。
若き牧師の風間は、失恋で旅に出て、深い森にさ迷いこむ。これは言うまでもなく彼の心の象徴である。
そこで、キノコ採りの老婆の渡辺えりに会い、予言の通り森の中の古い館に突き当たり、そこに一夜の宿を求める。
すると館で若い女・趣里に会い、恋愛的になるが、実は趣里は母親で、老婆の渡辺えりは、娘であると言った具合に話はゴシック・ロマンの怪奇物になる。また、盲目の牧師の高橋克実が現れて、様々に3人とやり取りするという筋である。
だが、この劇の主眼は、そうしたところにあるのではなく、実は一種の宗教問答がテーマなのだ。
風間らは、スピノザ派の牧師で、「スピノザ派とはなんで、その教義は」という具合で、日本演劇史で多分初めてでないかの宗教的説明と問答をこなす。
風間は、実はこうしたことを考えるのが好きなのだそうで、4人の中での演技を巧みにこなしていた。
そして、最後に歌舞伎、舞踊の『黒塚』、『安達ケ原』を基にした劇であることが明かされる。
北村想の劇作術の巧みさはさすがだが、それをこなした演出の寺十吾(じつな さとる)も分かりやすい劇を作り出していた。
三軒茶屋のシアター・トラムでは、あまりいい劇を見た記憶がないが、これは相当に良い方である。