フランス文学者の阿部良雄氏が亡くなられた。急性心筋梗塞で74歳だったそうだ。
喪主が妻文子となっていたが、彼女はクラスは違うが、私と高校の同級生である。
彼女は大変な美人で、自民党の有名議員の妹、祖母は明治の大歌人である、と書けば多分誰の孫だかすぐに分かるだろう。
彼女は私の同級だったのだから、阿部氏とは一回り以上も年が違ったことになる。
高卒後、フランスに行ったらしいので、そこで知り合ったのだろう。
阿部氏は、新聞にも出ていたが小説家阿部知ニの息子である。阿部知ニには、大学で「比較文学」を習ったことがある。
阿部知ニは、所謂「同伴作家」と言われ、戦前共産党に同調的な作家であった。
映画史的に言えば、戦前に阿部の小説『冬の宿』の映画化(監督豊田四郎)が名作だったらしいが、私は見ていない。
木下恵介の大傑作『女の園』の原作も阿部であるが、あのシナリオは、実際に京都の女子大に行き事件を再調査して書いたので、原作とはあまり関係ないようだ。
彼の講義は、当時の全共闘全盛時代にあって意気の上がらないものであった。
憶えているのは、「芸術に於いて形式が先か、内容が先か」という論題で、「形式が重要であったとしても、その形式を支える内容がなくては良い形式は生まれない」という彼の意見であった。
「左翼作家らしい、思想性優先の考え方だな」と思ったことをよく憶えている。
今、考えればああした上品なインテリ作家というものも、現在ではほとんど絶滅した、と大変懐かしく思える。
阿部良雄氏も、作品は中央公論の文庫本くらいしか読んだことがないが、なかなか上品な先生だったようだ。
ご冥福をお祈りしたい。