『恋の大冒険』

1970年、上京してきた少女、当時人気のピンキーとキラーズの今陽子が、恋を求めて起こるドタバタ喜劇。
監督は羽仁進、脚本が映画評論家の山田宏一と渡辺武信。また、美術と中に挿入されるアニメは和田誠。音楽は勿論、いずみたく。

田舎から東京に列車で来るというのは、ルイ・マルの『地下鉄のザジ』を想起させるが、これも全体がスラップ・スティツク・コメディである。
シュールなギャグもあるが、あまり上手く行っていない。カバ・ガールとカバー・ガールと取り違えるなど、相当に無理がある。
ところどころには素晴しいシーンもあり、今が憧れる獣医師の青年・大矢茂とその恋人のファッション・モデルの由紀さおりがミュージカル風に歌い、踊るシーンなどは、とても良い。
大矢茂は、加山雄三のバンドのメンバーだったそうで、一時は加山の若大将の後継者とされたが、成功しなかった。
だが、なかなかきれいなルックスの、内向的な感じの青年である。
羽仁の映画には、ときどきこの手の若者が出てくる。
言うまでもなく、羽仁の「少年愛」によるもので、気持ち悪いときもあるが、『午前中の時間割』のように成功したものもあり、これも成功の部類だろう。
喜劇としては余り上手いものではないが、淡い失恋を描いた青春映画として見れば、なかなか味のある作品である。
悪役として「迷竹(まいたけ)ラーメン」の社長が前田武彦、その手下に土居まさるが出ているが、狂言回しとしては不足。
全体に、ヒロインが由紀さおりであるなど、ほとんどの出演者をいずみたくの会社・オールスタッフ・プロの連中で作ったため、役者が不足している。
なくなった藤村有弘、今は芸能活動から引退した佐良直美らも出演。
60年代後半から70年代にかけ、東宝をはじめ大手映画会社の路線が大混乱していたことを示す作品であるが、なかなか楽しい映画だった。
フィルム・センター

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