高峰三枝子、木暮三千代、細川俊夫、斉藤達雄ら主演の松竹の歌謡メロドラマ。
監督は後に東映で『水戸黄門』、さらにテレビ映画を多数撮った佐々木康。
あらかじめ吹き込んでおいた歌を流して演技させる「プレイバック」手法を駆使した作品で、大ヒットしたそうだ。
話は、音楽家斉藤のところに分かれて暮らしてきた実の娘・高峰が突然来る。
斉藤は、恩師の娘岡村文子が、恋人との間に出来た娘の木暮三千代を自分の子として来たので、高峰を認めることは出来ず冷たく帰す。
高峰は、新進作曲家の細川をはじめ、漫才のリーガル千太・万吉、坂本武、コロンビア・リズム・ボーイズ(中野忠晴)らが住む下町のアパートに転げ込み、彼らの励ましで、最後は歌手として成功する。
これも「総集編」なので、細かい描写とストーリーがない。
さらに、溶暗がとてもいい加減で、画面が暗くなっても台詞が続いている。
多分、総集編を作るとき、ネガを捨ててしまったため、編集後のプリントしか残っていないのだろう。松竹は本当にフィルムの保存がひどい。
全体として、中野忠晴のコーラスや音楽、さらに芦ノ湖でのハイキングなど、きわめて西欧的な映像とセンスを作り出している。
話が、互いに父娘と名乗れない、新派悲劇(戦後の大映の「母物」から、テレビの山口百恵の『赤いシリーズ』までの古臭い物語)なのに、センスが新しいところが、大ヒットした所以だろう。
ラストの東京劇場での、高峰らの『純情二重奏』の大コーラスはすごい。
昭和14年、すでに日中戦争下だが、歌謡メロドラマの甘美な世界に国民が酔いしれたのは大変よく理解できる。
フィルム・センター