『夢の裂け目』

新国立劇場の開場20周年記念公演、昔見たことがあるが、出来が良かったと記憶していたので見に行く。ところが始まってから、どこまで行っても話に見た記憶がない。

そのまま終わってしまい、

「俺の記憶はこんなにひどくなったのか!」と思い、帰りの道でこのブログを調べると、見たのは『夢のかさぶた』で、これは見ていないことが分かり安心した。

話は、根津の紙芝居屋の元締め田中留吉の段田安則で、義理の父親で絵描きが木場勝己、娘が唯月ふうか、この人は知らないが、ホリプロで『ピーター・パン』も演じた女優だそうで、溌溂として良かった。

その他、高田聖子、吉沢絵梨、上山竜次など、全員が演技して歌い踊る。

1946年夏、段田のところに、極東国際軍事裁判所検事局から証人供述のヒアリングの知らせが来る。段田は、東京の下町の人気紙芝居の元締めだったが、戦時中は戦意高揚紙芝居を作って配布していたので、日本の戦意高揚政策の実例として法廷で証言してもらいたいと言うのだ。

明治生命ビルの検事局に行くと、川口女史の保坂智寿がいて、いろいろとヒアリングされる。彼女は日本生まれだが若いころ渡米し、米政府で働き、今は検事の助手を務めているとのことで、この女性の造形は、坂西志保氏がモデルのようにも思えた。

要は、紙芝居に象徴される庶民の戦争責任であり、結論としては「普通の人には責任はない」とされる。もちろん、彼らも被害者であると共に加害者であったことの暴かれるが。また、この時期の井上ひさしの作品の常で、天皇に一番の戦争責任があることも描かれる。東京裁判で、有名な元陸軍の田中隆吉の証言、つまり検事側の証言によって東條英樹らの悪事が暴かれる件が面白い。これは今回日本でも導入された「司法取引」による敵側証言で、東條などの最高指導者の悪事が暴かれたのである。

最後は、空襲で妻を失っていた段田に、保坂が求婚し結ばれるところでハッピーエンド。

音楽は、『ハッピーエンド』などのクルト・ワイルが使われていて、やはり素晴らしい。

演出栗山民也。

新国立劇場小ホール

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