『選挙』

2年前の10月の統一補選のとき、川崎市宮前区では参議院補選、川崎市長選とともに9・11の衆議院総選挙に出たため川崎市議会議員を辞職した議員の補欠選挙が行われた。補欠選挙には、自民、民主、共産、ネットの4党から候補が出た。
その結果、公募候補の40歳の山内和彦氏が自民党公認で民主党の女性候補と大接戦の末に勝つ。
その活動を克明に記録した、東大の同級生・想田和弘監督の「観察映画」である。

コイン商で(と言っても実際は奥さんに養ってもらつているらしい)、東京在住の川崎には全く関係ない「落下傘候補」の山口氏は、地元の自民党の人間のご指導で選挙運動を展開する。
ひたすら名前を連呼し、「小泉自民党、改革を進めます!」ばかりを言う。
今回の参議院選を見ると、「ああこういう時もあったのだな」と懐かしい気がする。
初めはおずおずと連呼していた彼も、次第に乗ってきて最後は、自ら握手を求めて人を探すまでになる。
この変身は、彼も言っているが「違う人格になる」のが大変興味深い。
まるで、劇を稽古しているとき、役者が次第にテンションが上がり、役になっていくのと同じように見えた。
ついには、奥さんまで街宣車(戦車と言っているが)に乗り、「山内の家内でございます!」と連呼するに至る。

小泉純一郎人気は誠にすごくて、選挙期間の最終の土曜日、小泉首相がどこかの駅頭に来ると千人近くの人出。

奥さんのことを「妻」と言ってはだめで、「家内と言え」とか、お祭りでは嫌やいやながら神輿を担がされ、老人クラブの運動会の開会式ではラジオ体操をやらされる。
実に滑稽としか言いようがないが、それが日本の選挙運動であり、政治なのだ。
途中、奥さんが組織の連中から「仕事をやめたら」と言われ「それで、この次の選挙に落ちたら誰が責任を取ってくれるの」と憤慨するシーンが、こうした若い世代と自民党の本質的な違和をよく表していた。

同区の自民党市議会議員の後援会から動員されて運動を手伝うおばさんたちの会話が実に面白い。
補欠選挙だから手伝ってくれるので、本選挙になれば競争相手となる。互いに百も承知なのである。

因みに、山内氏は、今年4月の統一地方選では、宮前区は定数10で、自民党は彼を入れて4人になってしまうので、立候補しなかった。
多分、様々な軋轢でできなかったというのが真実だろう。
ともかくおかしい映画である。横浜黄金町のシネマ・ベティで朝10時からの上映。

昼食後、あまりに暑いので、隣のジャックに行き、石原裕次郎の2本立て『青年の樹』と『俺はまってるぜ』を見る。
どちらも、2回目だったが、興隆期の日活の若さとエネルギーを堪能する。
本当に暑い一日だった。

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