『風の又三郎』と『綴方教室』

『天然コケッコー』の田舎の学校に東京から転校生がやって来ると言うのは、恐らく宮沢賢治の『風の又三郎』が原型だろう。
『風の又三郎』は、昭和15年に日活で島耕二監督で作られていて、児童映画の名作とされている。
また、昭和13年に東宝で作られた山本嘉次郎監督の『綴方教室』も、名子役高峰秀子主演の名作で、この2本はよく並木座で併映されていた。
この2本は、たった2年しか違わないが、内容には大きな差がある。

『綴方教室』は、豊田正子の作文で東京の下町、千住あたりの極貧の家庭の話であるが、そこには良心的教員で左翼的な匂いをさせる滝沢修がいて、町には明らかに朝鮮人と見られる人たちが出てくる。
そして、徳川夢声の演じる日雇いのブリキ職人の生活が明確に描かれ、現実がある。
だが、2年後の映画『風の又三郎』では、子供たちは観念化され、抽象化された子供になっていて、現実は存在しない。
それだけ、映画は日本の歴史的現実から観念の世界に追い込まれていたのであろうと思う。
戦前と言っても、実は一様ではないのである。

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