本当に死んだ二人

このところ、二人のまだ生きている方、吉沢健と田中大三の二人を「死んだ」と書いてしまった。
今や、死者で食っているのは、葬儀屋と雑誌「映画芸術」と言われているが、このサイトも同類と思われないようにしないいけない。
そこで、本当に死んだ有名人について書く。
井上梅次と藤田まことである。

我々が大学に入った1960年代後半、「井上梅次など、もう古い」と言われていた。
だが、当時のものを見ても、結構面白い。
ただ、井上は海軍経理学校出の性か、すべてが計算され尽くされて理屈で完結していて、むしろ詰まらなくなっていた。
彼の本に、ある助監督が「今度監督に昇進することになったが、それが歌謡映画なので、どうしたら良いか」と聞かれ、「歌謡映画がきちんと撮れない監督に、文芸映画も撮れるはずはない。是非やれ!」と言ったとあった。
さすがである。
一般に思われているのとは逆に、文芸映画より娯楽映画の方が作り方は難しく、遥かにテクニックが必要なのだ。

藤田まことは、76歳と若かったが、タバコの性だろう。
彼の映画では、小林正樹監督の『日本の青春』が多分一番だろうが、豊田四郎監督、森繁久弥主演の『新・夫婦善哉』も、大変おかしかった。
藤田はまことは、森繁の娘中川ゆきの婚約者の医者。
森繁が父親であることを隠して藤田の医院に行き、そこでのやり取りは、二人の名優で、実におかしかった。
名優は、相手が上手いと互いに冴えるもので、『座頭市・二段切り』の勝新太郎と三木のり平との面白さと同じである。

日本の映画、テレビに貢献された二人のご冥福を祈る。

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