泥臭いラブ・コメディ 『八月生まれの女』

若尾文子によくあったラブ・コメディである。
神宮球場近くで、若尾文子のオープンカーと宇津井健のシトロエン2CVが衝突事故を起こしている。
若尾は、父が起こしたカメラ会社を継いで社長をしている。
高齢の秘書が東野英治郎で、父親の秘書だったのが、そのまま若尾の秘書になっている。
若尾は、スポーツの他、日本舞踊にも堪能で、その師匠が角利江子で、こんな軽い役にと思うと、あとで重要な意味があることがわかる。

宇津井は、得体の知れない男だが、ひどく図々しく若尾のところに来る。
また、若尾の大学時代の友人が浜田ゆう子で、探偵会社で働いている。
若尾は、仕事一筋で、結婚の意思がなく、東野英治郎は彼女を結婚させるため、四国のデパートの御曹司の川崎敬三のところまで、カメラの営業と偽って四国まで連れて行き、見合いさせるがうまくいかない。
川崎が、魚類学者で、ふぐの生態の講義をするのが笑わせる。

最後は、勿論若尾は宇津井と結婚し、宇津井が社長席に座り、若尾は家で、生まれてくる子供のために毛糸で靴下を編んでいる。
脚本は、娯楽作品を多数書いた舟橋和郎で、本当はこういうラブ・コメを作りたかったのかと思った。
だが、大映は、照明の性か、カメラが古いのか、美術のセンスがないのか、ひどく汚い汚れた画面なので、カラー・ワイドのラブ・コメ映画なのだが、少しも明るくない。
男嫌いの若尾が、最後は普通の主婦になるというのは、いかにも大映的センスである。
大映映画に、不倫はあっても、成瀬巳喜男のような不道徳性はないのだから。
『浮雲』の不道徳性は、大映映画には決して出てこないものであると思う。
阿佐ヶ谷ラピュタ

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