『NaNa』

期待していなかったが、前から中島美嘉は贔屓なので、行くと意外に面白かった。現在の若者の心情のキーワードが、「自分らしく自由に」であることがよく分かった。
中島美嘉と宮崎あすかの、同じナナという名の二人の女性の話。
ツッパリのロックシンガー中島と能天気なフリーター宮崎。上京する新幹線で偶然知り合い、同じ部屋をシエアーする。
中島は、昔の恋人で有名ロックバンドメンバーの松田龍平と再会し、宮崎は付き合っていた恋人と別れる。

注目すべきは、ここには役作りといった伝統的な演技が全くないことだ。
東陽一の『サード』『もう頬杖はつかない』あたりから始まった自然な演技が完全に定着し、他に演技の方法論がないことが分かる。太陽族から『非行少年・陽の出の叫び』や『非行少女ヨーコ』などの不良少年ものにあった、少年・少女たちの「背伸び」が全くない。

自分が普通に言うように台詞を言い、演技しているのが当然となっている。
そして、ここで顕現されている若者の気分は、「自分のやりたいことを自由にやる」ということである。勿論、それは間違いではなく、究極の目的である。
しかし、大きく見れば自分が選択したのではなく、実は類型として与えられたものであることが分かる。
昔、アメリカの社会心理学者R・D・レインが『引き裂かれた自己』の中で書いたように、アメリカの消費社会の中で、人々は自らが選択したように思い商品を購入しているが、実は選択するよう強いられたものだ、と言った趣旨のことを書いていたと思う。それに近いことが今日本でも起こっているのではないか。

そして、若者のそうした「自分らしく、自由に」という気分に一番あったのは、政治で言えば小泉純一郎首相である。小泉首相に、従来の自民党の勢力に縛られているという感じはない。
それに比べれば、岡田克也民主党前代表は、自由にものを言わず、どこか後ろに存在する者や勢力の意見を言わされていると言う感じがした。その辺が、若者が民主党に投票しなかった大きな理由だろう。

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コメント

  1. もの より:

    間違っています。
    「アメリカの社会心理学者R・D・レイン」とあるのは間違いですね。彼はイギリスの精神医学者で精神科医。分裂病などというものは存在しないという、いわゆる「反精神医学」のスター。一つの時代の寵児だった。確か、患者を妊娠させてしまうという事件を起こし、十年ほどまえ亡くなりました。

  2. ものぐさ太郎 より:

    続き
    上記文章の続き。かくして、レイン氏の存在は、東大闘争の引き金にもなった、東大医学部精神科、精医連の活動にも影響を与えたようです。ちなみに、東大の精神科が「正常化」したのは、1994年になってからと、最近、読んだ本で知りました。
    ところで、「自分らしく、自由に」という最近の若者の傾向が、最近の若者の右翼化とどう関係するのか、さらなる日乗氏の分析を期待したいですね。

  3. レインではなくエーリッヒ・フロムでした。
    アメリカ社会を分析したのは、レインのではなく、ナチスからの亡命学者エーリッヒ・フロムの『自由からの逃亡』でした。同書が本棚の奥に入っていて、手に取れなかったので、間違えてしまいました。
    フロムのアメリカ社会、さらに近代の欧州社会を作り出したプロテスタンティズムの狂信性についての記述はすごい。

    近年の若者の右傾化の原因は、単純に日本が豊かになったことと、ごく最近の中国、韓国の台頭による恐怖感、不安感からでしょう。