『坊ちゃん』

夏目漱石の小説『坊ちゃん』は、全部で5回映画化されているが、その最初で1935年のPCL作品。

監督は山本嘉次郎、主演は宇留木浩で、女優細川千賀子の兄だったが、36歳で亡くなったとのこと。宇留木浩は若いころからの山本嘉次郎の仲間の一人だったそうだ。

これを見てあらためて思ったが、『坊ちゃん』は小説として読むには楽しいが、映像にすると面白くないことだ。理由は簡単で、坊ちゃんにドラマがないからである。

せいぜい、田舎の中学生にいたずらされて怒ったりする程度、この小説の劇は、うらなり(藤原釜足)、赤シャツ(森乃鍛冶屋)とマドンナ(夏目初子)との間にあり、主人公は何もできず、最後でヤマアラシ(丸山定夫)と一緒に赤シャツを殴るだけだ。

また、この小説での坊ちゃんは、イコール漱石ではないことで、むしろ洋行帰りの気障な赤シャツにこそ、本当の漱石は近いことに注意すべきだろう。

5回の『坊ちゃん』は、松竹で南原宏冶が演じたもの以外は見ているが、東宝での池部良主演のが一番良かった記憶がある。

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