『月・こうこう、風・そうそう』

「かぐや姫伝説」よりとサブタイトルされた別役実の新作は、期待にたがわぬ濃厚な台詞の劇だった。

演出は宮田慶子で、彼女は青年座でも比較的リアリズム、あるいは娯楽的語り口の劇が多かったようだが、こうしたような抽象的な戯曲の方があっているように思えた。

『かぐや姫』、『竹取物語』と言えば、加藤道夫の傑作に『なよたけ』があり、これは以前新国立劇場でも上演されているが、これはある青年貴族の失恋が物語を作り出すというものだった。

もちろん、そこには戦時下の悲劇的な青春をおくらざるをえなかった加藤道夫たちの世代の悲劇がある。

この別役の新作には、かぐや姫伝説の他、兄・妹の近親相姦の禁忌、竹林を支配する武士と竹取の翁、舞え舞えかたつむりの『梁塵秘抄』などが巧みに取り入れられている。

                    

別役の戯曲の特徴は、その台詞の裏と人間の内部を覗わせる中で、まるで内部感情を微分していくようなスリリングな時間がある。

竹藪で翁(花王おさむ)によって見つけられ、媼(松金よねこ)との手で数か月で美した姫(和音美桜)には、高貴な男たちが言い寄ってくるが、姫は彼らに課題をかして、皆落第してしまう。

原作の『竹取物語』では、この5人の男たちとのやり取りが話の中心になっているが、ここでは中心ではない。

むしろ、姫が抱えているのは、自分はどこから来てどこに行くのか、すべてが自分ではわからないという問いである。

また、盲目の女(竹下景子)が二人のことを様々に予言し、劇はさらに不条理世界に誘われていく。

もちろん、それに誰も答えるっことはできないが、できない内に、森のもののふの風魔の三郎(橋本淳)と、あるいは兄・妹かもしれず、夫婦になると死んでしまうという予言を受けるが、二人は夫婦になり、姫は子を宿す。

風魔の三郎が、竹林の王者を決するための戦いをするとき、三郎は引き絞った弓の矢じりを一度は姫の腹に向けるが、姫の声で、竹林の外に射てしまう。

姫は言う、

「一番弱い人間である子を救ったことで、ものもふは去ったのです・・・」

この台詞は、何を意味しているのだろうか、私の独断では、これは作者たちの「護憲意識」を示唆しているのではないだろうか。

それにしても、なにが起きても、誰かがこうこうしましたと側近が言っても、常に「ああ、そう」としか答えない帝(瑳川哲郎)の在り方は、じつに面白いものだとあらためて思った。

盲目の女が弾く月琴など、仙波清彦の音楽が強く耳に残った。

新国立劇場小ホール

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする