『2つの名前を持つ男』 カメラマン・金井清一

2つの名前を持つ男とは、戦前日本の映画会社新興キネマに金井清一として在籍し、戻って韓国で『家なき天使』を撮り、戦後は韓国映画のカメラマンの重鎮として活躍した金学成氏のことで、彼についてのドキュメンタリーである。監督田中文人。

金井は新興キネマ時代には、最近亡くなられた名カメラマン岡崎宏三氏とも親交があり、1970年代に訪韓された岡崎さんは、金氏と旧交をあたためている。

第二次大戦直前に日本公開の予定だった、孤児院を描いた韓国映画『家なき天使』は、内務省の検閲で不許可となり、ほとんど上映されなかったそうだ。
フィルムは、ないと思われていたが、最近中国から出てきた(多分旧満映からだろう)。非公開の理由は「やはり内地語(日本語)でないとね」と、映画批評家筈見氏らが書いている。

映画としては、日本と韓国を結んだカメラマンという珍しいドキュメンタリーだが、岡崎宏三ファンから見れば、岡崎さんの映画について、ほとんど触れられていないのが、不満である。
川島雄三の『花影』や、豊田四郎の『如何なる星の下に』等の名作のスチールくらいは、使ってもらいたかったと思う。

現在、大興隆の韓国映画界では、金氏のような日本出身ではなく、アメリカや欧州の留学組が大活躍されているらしいが、その基礎を作った方の歴史は決して無意味ではない。
歴史というものは、そういうものである。
改めて個人の業績と歴史の意味を考えさせられる作品。

どうでもいいことだが、最近「2つ」とか「3つ」と書いて、ふたつ、みっつと読ませることが多い。
だが、やはり間違いで、「二つ」あるいは「三つ」と表記すべきだろう。
この映画も「2つ」となっていたのは、大変残念だった。

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