大森キネカの三島特集『からっ風野郎』 主演が三島で、その役がすごい。低脳で臆病なヤクザで、殺し屋神山繁に殺されてしまう。三島は、『憂国』でも死んでいるので、3回死んだわけだ。
普通、人が演技する場合、大抵は実際の自分より良い役を演じたがるものである。
だが、ここでは最高にみっともない役。
場末の落ち目のヤクザの組長(志村喬)の息子で、小心で度胸のない馬鹿者なのだ。
マゾヒズムの極みと言えばそれまでだが、こういう人間を嬉々として演じた三島はやはり相当に変わった人である。
敵のボス根上淳を刺して刑務所入りしていた三島が出所する。
彼の情婦でクラブの歌手は、なんと二代目水谷八重子(当時、20歳の良重)。
志村たちは、平和マーケット(ロケは池上線の五反田である)を支配しているが、新興ヤクザ根上に押されている。
三島は、彼らと最後の決戦をするため、水谷と別れ、映画館のもぎりだった若尾文子と一緒になる。
根上の娘の誘拐、根上たちによるスト破り、不法薬剤の横流し等がある。
最後三島は若尾と普通の暮らしをしようとしたとき、デパート(東京駅大丸)で神山に射殺され、エスカレーターを逆さになって昇って行く。
このラストは、大変強烈であるが、後年の三島の最後を思うと、1960年の当時から、こうした意識があったのだろうか。
監督の増村保造は東大で三島と同級だったが、この映画では三島の演技を徹底的にしごいたそうだ。
三島の臆病なヤクザは意外にもリアリティがあるが、若尾の貫禄がすごい。
公開当時、映画は大ヒットし、大島渚は、こうした際物のヒットは不快だと書いている。
三島の友人で組員・船越英次と三島の関係は、勘ぐってみれば「ホモセクシュアル的」であり、三島には船越のような本当の友人がいなかったので、ああいう事件になったとも言えるだろう。
ともかく多くのことを考えさせる映画である。
船越は、両手でシンバルを打つゼンマイの猿の玩具に三島を喩えているが、まさにそのとおりである。