皇太子ご婚約で変えざるを得なかった結末 『細雪』

昨日は、皇后陛下の84歳のお誕生日だそうで、まことに慶賀にたえない。

さて、1958年の皇太子(現天皇陛下)の正田美智子さんとのご婚約は、当時の社会全般に大きな影響を与えている。

その一つが、1959年に製作された、大映版の『細雪』である。

1950年の新東宝版(監督阿部豊 主演高峰秀子)に次ぐもので、山本富士子の主演で、彼女は原作の主人公である3女の雪子を演じる。長女は轟夕起子、次女は京マチ子、そして四女は、本来は若尾文子だったが、彼女は辞退し叶順子になった。叶と言ってもあの、あの下品な叶姉妹とはまったく関係なく、色気がある割に品がよく、当時大学生に一番人気のあった女優と言われた。

さて、この映画では、原作の通り、雪子は、様々な男と見合いするが、最後は誰とも結婚しない。その理由が、ある相手の家から、

「四女の妙子がいろんな男と問題を起しているのでお断り・・・」というものだった。

それを聞いたとき、雪子は、

「妙子のことで文句を言うような人とは結婚しなくてよい」と自分を納得させる不思議な結末になっている。

これは、あまり説得力のある言い訳とは思えない。

本当の理由は、皇太子の正田美智子さんとのご婚約だったと思う。

言うまでもなく、原作の『細雪』の結末で雪子は、元華族で、欧米等に留学し、今は飛行機会社の重役をやっている男と結婚してハッピーエンドになる。

1959年当時、華族はすでに存在しなかったし、天皇家でも平民の娘を迎え入れる時、雪子を上流階級の男と結婚させる結末にすることはできなかったのだと推測できる。自民党河野一郎の有力な後援者の一人だった大映社長永田雅一でも、当時の民主主義的婚姻感に従わざるを得なかったのだ。

ちなみに、新東宝版の『細雪』は、もっとすごくて、主人公は3女の雪子ではなく、自由奔放に生きていく4女の妙子で、高峰秀子の生き方が堂々と肯定されている。

原作に一番近いのは、1983年の市川崑監督の『細雪』で、ここでは時代設定を戦前に戻してしまい、原作通りに雪子の吉永小百合は、元華族の男と結婚するが、これが元投手の江本であるには笑った。

ここで市川が原作に加えているのは、2女の夫の石坂浩二が、吉永を好きで、本当は彼女を結婚させたくないとしているところであり、ここはなかなか面白い伏線になっている。

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