東京の中の戦前の町

映画『泪橋』が撮影されたのは、東京品川の旧東海道沿いの場所で、ここはつい最近まで戦前の町並みが残っていた。
正確には、旧東海道と京浜国道との間の部分で、何故か戦災に遇わなかったので、古い木造家屋が密集していた。
私は、20代の後半から約10年、この近くの北品川に住んでいた。

同地は、日活の小林旭の主演で鈴木清順監督の映画『関東無宿』でも使われ、不思議なムードを出していた。両作品とも美術が木村威夫さんなので、過去の経験を利用して上手く背景に出来たのだろう。
『泪橋』は、ほとんど見るべきもののない映画だが、この美術と、佳村萌の許婚の不破万作は傑作である。

彼が唐の同級生で、あの明治大学出のインテリとはとても思えないだろう。
不破万作は、言うまでもなく状況劇場のスターだったが、大変口の上手い人で、どんなに困難な相手でも、必ず説得してしまうのだそうだ。
状況劇場は様々な、普通はやらない場所で芝居をやったが、それを可能にしたのは、不破の説得力なのだそうである。
意外なものである。

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