『グレイクリスマス』

1945年、日本は連合国に無条件降伏し、その年の12月のクリスマス。

伯爵の五條家は、その大邸宅を占領軍に接収されていた。

五條伯爵(千葉則茂)の後妻華子(中地美佐子)と先妻との間の娘慶子(吉田陽子)は、生来の脳天気で浮世離れしている五條紀明の無能ぶりとは逆に、自宅に将校クラブを開き生き生きとして生きはじめている。そして、華子は、占領軍の日系将校のジョージ・イトウ(塩田泰久)と恋に落ち、彼が説く「民主主義」に心がときめいている。

これは、GHQの将校と島尾侯爵夫人との有名なスキャンダルを基にしたもので、この事件は昭和電工事件にまでなる。

作の斎藤憐は、『上海バンスキング』で有名だが、彼の作品は戦後、東京宝塚劇場を占領軍の娯楽施設にした『アーニー・パイル』も非常に面白いミュージカルで、常に歴史、特に戦争に係わる作品が多い。

斎藤の劇作は非常に巧みで、伯爵家の使用人や出入りする者なども入れて、戦後の社会の模様を描く。同様の劇は、映画では原節子出演、吉村公三郎監督の『安城家の舞踏会』などがあるが、演劇ではそう多くないと思うが、上手く構成されている。

時代は動き、初期GHQの日本の民主化から、朝鮮戦争の勃発で、日本はアジアの反共の砦となり、進歩派だったイトウも本国に帰還することになる。彼は言う、故郷のシアトルで、雪の降らないクリスマスを「グレイクリスマス」と呼ぶことを告げ華子のもとを去る。

また、慶子は、出入りしていたブローカーの権藤(岡本健一)を恋していたが、朝鮮人の彼は戦争に参加すると言い慶子と別れた直後警察に射殺されてしまう。

本の短い瞬間だけ、日本の真の民主化の希望があったわけだが、それはすぐに消えてしまう。

まるで、クリスマスの夜に降り、すぐに消えてしまう雪のように。演出丹野郁実。

三越劇場

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