海外のグループの公演はなるべく見に行くようにしている。
日本のものと違い、発想の違いがわかるからである。
今回は、ルーマニアの劇団の公演で、『ルル』である。
ルーマニアの人たちには、1988年に横浜市の友好都市コンスタンツア市から舞踏団が来たときに少し付きあったことがある。
それは、神奈川県主催の国際交流イベントで、横浜はルーマニアのコンスタンツア市とカナダのバンクーバー市の代表団を招聘したのであった。
ちょうどルーマニアでは、東欧革命の中でチャウシェスクが失脚し、民主化された直後で、コンスタンツアから来た彼らは、連日寝ていないとのことだった。
なぜかと通訳の方に聞くと、電力不足で停電が頻発し、町が一様に暗いルーマニアに比べ、横浜の町は光り輝き、テレビは深夜まで放送している。
「これは、一体なんだ」とみな興奮して寝られないのだと言う。
あれから25年、19世紀末の欧州で有名になった「運命の女・ルル」を主人公にした劇が行われるとは、ルーマニアも大きく変わったものだと思う。
『ルル』は、ドイツの劇作家フランク・ヴェデキントの作の劇で、彼の作品は戦前から『春のめざめ』や『パンドラの箱』等が翻訳、紹介、上演されれてきた。
サイレント映画でもルイズ・ブルックスの主演で作られていて、これには作家の大岡昇平が絶賛し、彼は晩年にムックまで作っている。
また、最近では7年前に世田谷パブリック・シアターで、白井晃の演出、秋山菜津子の主演で上演され、全国公演もされた。
話は貧民街で産まれたルルが、新聞記者、医事顧問官という高級官僚、写真家、さらに同性愛者の令嬢らと関係するが、最後は破滅してしまうもの。
要は、類まれな美貌と肉体に恵まれた女性によって、社会の上から下までの退廃と欲望を描くものである。
会場は、東京芸術劇場だが、ステージ上に特設された馬蹄形状の木製劇場で行われた。
まるで、裁判所の陪審席のような形で、観客は、現実の事件に対面し自分のこととして感受するようにとの企みだろう。
だが、それはただの拷問席だった。
それに多額の費用をかけてこのような特設スタンドを作る必要があったとは私にはまったく思えなかった。
東京都はお金持ちだなと思った。
主人公ルルは、ルックスも肉体も悪くはないが、日本の壇蜜の方が上だと思ったのは、私だけだろうか。
この芝居は、激情と血と愛欲が支配するが、オレンジ革命と言われた東欧革命で、旧権力者が惨殺されたのは、ルーマニアのチャウシェスクのみである。
その意味では、この劇も、ルーマニアの人の性向をよく現しているのかもしれない。
東京芸術劇場