ともかくナルシズムの強さに参った。ナルシズム、みゆき教とでも言うべきか。
昔、ある女性が言った、「この人横顔にすごく自信を持っているわね」
たしかに映像は、正面よりも横顔で歩くショットが多い。よく見ると、正面はともかく横顔はけっこうきれいである。
言ってみれば、美人歌手といわれず、根暗などと言われているのは、非常に不満なのかもしれない。
思い出せば、彼女の初の小説集『女歌』を『ミュージック・マガジン』で批評したことがあった。
1985年12月で、読み返すと結構きびしく批評しているが、小説というよりも実話であり、現在ならエッセイ集といわれるものだろう。
そこでは、彼女が経験した生活やコンサートツアーでの出来事、スタッフ、人間、昔の友人たちとのことが書かれていて、表現としてはきわめて適格である。ただ、彼女が優れているのは、自分がナルシストであり、自己愛の人間であることを自覚していることだ。
その例に、歌手の谷山浩子とジョイントコンサートをやった時のことが書かれていて、彼女はどうしようもなくて困ったそうだ。
たぶん、中島みゆきは、谷山に合わせることができなかったのだと推測する。
他人にあわせられない歌手や俳優はいるもので、女優で言えば田中裕子が典型で、自分の呼吸で台詞を言ってしまうので、次第に相手は田中に合わせるようになってしまう。
だが、これに快感をおぼえる人もいて、晩年の高倉健がそうだったと。
思えば、田中裕子も中島みゆきも、北海道の藤女子大を出ている。この大学は、相手に合わせずに自分の方に引き込めとでも教えているのだろうか。
「夜会」と称する渋谷のオーチャードホールでのコンサートの模様の映像集であり、一言でいえば、女と男の巡り会いである。
唐十郎なら、都市の地獄めぐりになったものだが、ここではそう不幸ではないが、幸福でもないという男女の愛が描かれている。
私の好みではないが、上等の短編小説のような味があり、底は深くはないが、それなりの面白さがある。
それは、彼女の作品にはドラマがないからで、たぶん自覚して除かれているのだろうと思う。
109シネマズ湘南