BSの「昭和演劇大全集」で、新派の『鶴八鶴次郎』
残念ながら、花柳章太郎と水谷八重子(初代)ではなく、中村勘三郎と水谷。
大正時代、若手の名人と言われた鶴賀鶴八・鶴次郎の、新内語りと三味線の相方の話。
先代の鶴賀鶴八娘の鶴八と、先代の内弟子だった鶴次郎は、幼い頃から一緒に兄妹のように暮らしてきて、心の底では互いを好いているが、何かと喧嘩ばかりしている。
所謂「喧嘩友達」で、バックス・テージものであり、現在の言葉で言えば、「ラブ・コメディ」である。
些細なすれ違いから鶴八は、大きな料理屋の女将になる。一人語りになり落ちぶれる鶴次郎。
差配の佐平は、鶴次郎を復活させるため、鶴八を迎えて、有楽座での「名人会」に出させて、大成功する。
だが、鶴八が、これからも芸事もやろうと決意したとき、鶴次郎は鶴八の芸を貶して喧嘩してしまい、鶴八は二度と芸事には戻らないと決意する。
勿論、これは鶴次郎の「愛想尽かし」であり、わざと鶴八を料理屋の女将の幸福な生活に安住させるための芝居だった。
川口松太郎得意の、江戸っ子の「人情の機微をわきまえた」処置だが、実は驚くことに、この劇の基は、アメリカ映画『ボレロ』なのだそうだ。
川口や、大仏次郎、長谷川伸など、戦前の大衆文芸は、日本的だと思っていると、実はその原作は西欧の小説や映画、と言う例が多いのである。
この人情話も、良く見ると筋の展開が早く、アメリカ映画的である。
映画では、東宝で長谷川一夫と山田五十鈴の主演で成瀬巳喜男が作っているが、なかなかの名作である。