『黒蜥蜴』

デヴット・ルヴォーは、ベニサンピットで頑張っている時代から好きな演出家で、そんな彼が中谷美紀のような大して魅力のない女優を主人公にするのか不思議だったが、見て分かった。

この女賊で、蜥蜴の刺青があるという緑川夫人というのは、実は女ではなく、男なのだ。

だから、女優としてはさして魅力があるとは思えない中谷を主人公にしたのだと思う。

と気ずいたのは、2幕の途中で、このよく理解できない、敵の明智小五郎の井上芳雄に惚れている夫人というのは、実は女性ではなく男であり、その禁断の愛ゆえに、二人の関係は非常にわかりなくくなっているのである。

それは、三島由紀夫の小説、そして日活で浅丘ルリ子の主演で1967年に映画化された『愛の渇き』と全く同じなのだ。

ただ、こちらの方が初演は、1962年の吉田史子の製作で水谷八重子と芥川比呂氏の共演という芸能界的に話題の作品だっただけに純粋性は低いといえる。

三島は、『愛の渇き』の主人公の悦子について、ある人から「あんな女はいるものか!」と言われたとき、

「悦子は男だよ」と答えたそうだ。

だから、この劇で、主人公の黒蜥蜴が、宝石泥棒と探偵という敵なのに対し、敵の明智を愛するという複雑な性格を持っているのは、おそらくは三島が結婚前に出入りしていた、男性同性愛クラブでの様々な男たちとの愛や憎しみのやり取りをもとにしているのだろうと私は推測する。

役者では、明智の井上芳雄はいつもの通りに最高だが、彼の弟子で、黒蜥蜴が盗む宝石の所有者岩瀬のたかお鷹、さらに彼の娘相良樹と愛し合うことになるソン・ハがよかった。

1幕の台詞劇は少々冗漫で、私も睡魔に襲われた。

日生劇場

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