本郷功次郎という男優がいる。
彼は、柔道をずっとやっていたが、偶然大映のスターになり、日本映画全盛期に多数の作品に出演した。
そして、彼は当時大映の大スターだった勝新太郎と市川雷蔵の両者に可愛がられたそうだ。
勝新と雷蔵は特に仲が悪かったわけでないが、撮影所の中には自然と両者の取り巻きがあり、派閥を形成していた。だから、両者に同等に付き合っていた役者は少なく、大変珍しいのだそうだ。
あるとき本郷は、大阪歌舞伎座公演に急病で休演になった中村錦之助の代役をすることになった。それも公演初日まで数日しかないというときに。
芝居の経験が全くない彼は、歌舞伎での経験の深い勝新と雷蔵の二人に「どうしたら良いか」を聞きに行った。
すると、雷蔵は「台詞を全部憶えろ。台詞を憶えればすべて動きが出てくる」と言った。
次に、勝新太郎のところに行き、聞くと勝は、
「台詞など全く憶える必要はない。役の心だけをきちんと辿っておけば、台詞は自然に出てくるもんだ」
これは、二人の演技感の違いを現しとても興味深いが、実はどちらも正しいのだ。
「心から入るか、形から決めるか」それは役者自身のタイプの違いであり、人それぞれなのだ。
コメント
雷蔵 本郷 玉緒
NHE-BSの雷蔵特集番組にて、本郷と中村玉緒の次のようなコメントが放送されてました。
本郷「大映に入社した頃、雷蔵さんの自宅に下宿していた。夕食は毎日、日本料理のフルコースが出たが、雷蔵さんは熱燗をお銚子一合しか飲まないので、自分にも同じように一合銚子しか出なかった。酒飲みの自分はもっと飲みたいと感じ、一合ぽっち出すくらいなら、いっそ飲ますな!と思った」
玉緒「中学生の頃、雷蔵さんに宿題をよく教えてもらった」
「父親同士の関係もあり、雷蔵さんと仲良くしていたので、雷蔵さんととの仲が噂になったが、兄としか感じていなかったので、噂になることが逆に可笑しかった」
「東映で錦之助さんが俳優組合を作った頃、大映でも俳優組合を作ろうという機運が高まった。雷蔵さんが組合代表と決まり、勝新太郎と自分(玉緒)の新居に六法全書を持った雷蔵さんが何度も訪れ、組合の意義を熱心に説いたが、乗り気でない勝はなまくら返事ばかりしていた」
映画みたい
コメント有難うございます。
六法全書を持って勝新に説明する雷蔵、適当に聞いている勝新。
まるで喜劇映画の場面ですね。
雷蔵のこうした真面目過ぎるところが、早過ぎる死に至ったのだと思うと少々辛い。