『青幻記』

ときどき見る大好きなビデオの一つである。
日本映画史上、もっとも美しく、悲しい映画の一つだろう。

「遠い日の母は美しく」と副題にあるように、若く美しくて死んだ母を思い出して30年後に沖永良部島を訪れる息子田村高広の物語である。
主人公かやの賀来敦子の美しさ、悲しさがたまらない。
近年では、藤原紀香や米倉涼子など、叩いても死なないような体格の女優ばかりだが、賀来敦子のような、はかない美しさこそ、本来の日本女性の美しさと言うべきだろう。

賀来は、島一番の美人の踊り手で、本土に嫁ぐが不幸な結婚に終わり、息子の田村高広と島に戻ってくる。
そして、病弱で、直接は海に溺れてだが、結核の発作で死んでしまう。
海辺の舞台で満月の夜に踊る賀来敦子の美しさ。
島の長老藤原鎌足から田村は、母のことを聞かされ、最後は母の遺骨を海岸で火葬して終わる。

言ってみれば「母物」であるが、これほど美しく描かれた作品はないだろう。
賀来の他、監督で撮影監督でもある成島東一郎のカメラ、沖縄の旋律を生かした武満徹の音楽など、実に美しい作品である。
これを見て、泣かない人間がいたら見たいものだ。

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