『マーラー』

世紀末の作曲家マーラーを描いたケン・ラッセルの映画、彼は他にも音楽家を主人公にする作品が多い。
クラシック以外にも、ロック・ミュージカルの『トミー』やツイギーを主人公にした楽しいミュージカルの『ボーイフレンド』などもある。
面白い作品を作る監督だが、性的で露悪的な表現が多く、正統派からは評価されていないようだが、私は好きな方である。

マーラーの伝記的挿話をかなり忠実に追ったもので、オーストリア帝国の辺境で生まれ、ピアニストとして才能を示し、ユダヤ人酒造家の父母から成功への過剰な期待をかけられる。
と言っても、音楽家としてではなく、金を儲ける有名人としての成功である。

彼は次第に才能を認められ、指揮者としての階段を昇り、ついにはウィーン歌劇場の指揮者になる。
このときの皇帝との謁見が大変興味深く、ズボンの中まで見られユダヤ人であることが再確認されて、コジマ・ワグナーに会えと言われる。
音楽界の女王コジマとの謁見、ユダヤ教からカソリックへの改宗は、サイレント映画で表現される。
そして歌劇場音楽監督になる。
マーラーの精神的苦悩も描かれるが、彼は明らかに分裂気質であり、実際ウィーンでフロイドの精神分析を受けている。
妻の美貌の女性アルマは、恋多き女性で、彼女も作曲家志望で、マーラーと同じ先生に師事していたが、彼との結婚で作曲を諦め、育児と写譜に専念することになる。
その不満は一生彼女に残ったようで、マーーラー以外の男との情事に耽ることになる。
以前、神奈川音楽堂でアルマ・マーラーの曲を聴いたことがあるが、簡単に言えば「お嬢さん芸」であり、グスタフとの結婚は正解だったはずだが。

マーラーは、今日では人気作曲家で演奏もCDも多い。
だが、彼は生前は作曲家としてはほとんど成功は得られておらず、高名な指揮者とみられていた。
それは、彼の作品が、当時の聴衆の耳よりも進んでいたわけで、作品には巷の音饗、民族音楽、大衆芸能など、あらゆる音楽と音響が取り入れられている。
また、彼は現代音楽の開祖というべきアーノルド・シェーンベルグを高く評価していたとのことで、その意味でも時代に先駆けていたのである。
要は、彼はきわめてワールドミュージック的であり、世紀末の音楽として最先端だったのである。
イマジカBS

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