ラピュタで井上梅次の『夜霧の決闘』を見ようと思っていたが、時間が間に合いそうもないので、フィルム・センターの『風林火山』にした。
原作井上靖、脚本橋本忍・国弘威雄、監督稲垣浩。主演三船敏郎、中村錦之助、石原裕次郎、佐久間良子。
武田信玄(中村)の軍師だった山本勘介(三船)の生涯を描く2時間40分の大作。
三船、中村、石原ら、当時盛んだったスター・プロ作品(これは制作三船プロ)であるが、大スターの顔合わせだけで無内容な作品ばかりだった中では、ましな方だろう。
ここで注目されるのは、勘介の由布姫(佐久間)への叶わぬ恋を描いていることで、言わばシラノ・ド・ベルジュラック(稲垣は三船主演で『ある剣豪の生涯』という翻案作品も作っている)であり、これは稲垣の名作『無法松の一生』(戦中に阪妻、戦後に三船でと二度監督しているが、その後も三国連太郎と勝新太郎が演じている)と同じテーマなのだ。
ついでに言えば、この「無法松」の、下賎な男が高貴な女性に惚れるというテーマは、あの『男はつらいよ』なのだ。
稲垣は、随分とこのテーマに固執していたということになるが、それには何か意味があったのだろうか。