『雁』について 続き

森鴎外の小説である。脚本・成沢昌成。この人は、溝口健二の実姉と関係があったことで、溝口の内弟子となり映画界に入る。
脚本家としての作品が多く、監督としても『裸体』『娼婦しの』『花札渡世』『ど助平一代』『雪婦人絵図』がある。まあ監督としては、不遇の存在であった。
監督は言うまでもなく豊田四郎。主演は、高峰秀子。記録では彼女の117本目の作品。この前が『煙突の見える場所』、この後に名作『女の園』がある。すごいね。さらに『24の瞳』、『浮雲』と続く。
この作品では、最初おずおずと出てくるが、次第に女性として自身を持ち、旦那の金貸しの東野英治郎を若い体で言うことを聞かせるところがすごい。そして、最後は学生・岡田(芥川比呂志)に憧れるが、あえなく敗れる。
この芥川のために本を買い戻すところは、原作と多少違う、映画オリジナルのサスペンスになっている。

木村威夫の美術もすごい。彼の本『映画美術』によれば、大映東京のスタジオ3つをぶち抜きで使い無縁坂を再現したのだそうだ。坂を上から見下ろしたとき、寒参りの行列や馬車が遠く画面を横切るが、これはスタジオの間を動かしたのだろう。
唯一の欠点は、団伊玖麿の音楽が絶えず流れていてうるさいことか。
なにしろ傑作である。

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