1965年に公開された山本薩夫監督作品。
1953年11月に起きた「徳島ラジオ商殺人事件」を忠実に描いた作品である。
主演の奈良岡朋子をはじめ、その甥で無実を証明するために奔走する瀬戸物屋が福田豊土、その妻吉行和子、また事件をデッチあげる検事に新田昌玄と新劇の役者が多数出ている。珍しいところでは、大阪の飯場の親方で大友純など。
当初は、物取りの犯行と思われたが、犯人が見つからず、検察は内部犯行説に傾き、同居していた少年樋浦勉らを捕まえ、自白を強要し、偽証させて内妻の奈良岡を犯人にして、有罪にしてしまう。数年後、犯人が自首して来るが、それも握り潰す。
金に困っていた奈良岡は、控訴も取り下げで刑が確定してしまう。
だが、叔母の有罪を信じない福田は、一人で樋浦ら少年を探し、偽証の証言を取る。
この辺の、徳島から大阪港、和歌山のダム工事現場等の、当時の地方都市や下層社会の描写がとても良い。
この作品は、大映で山本が市川雷蔵主演の『忍びの者』シリーズを大ヒットさせたお礼の金で作ったので、少人数スタッフのリアルな撮影がとても素晴らしい。
山本薩夫は、左翼監督として有名だが、元は画家を志していたこともあり、映像はきちんとして、迫力もあり、筋が明快で面白い。
ただ、ときに同調できないときもあるが、これは全くそうした所のない作品だった。
この映画の良いところは、新田をはじめ、検察側もきちんと描いていることだろう。その辺は開高健の原作にはなく、シナリオの井出雅人以下スタッフの創作だそうだ。
音楽は池野成で、重厚、山本作品では珍しい。
足利の冤罪事件が、記憶に新しいが、いかにして冤罪は作られるかが、よく分かる1本である。
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