1954年、新東宝で公開された市川崑作品だが、製作は青年俳優座、つまり劇団青俳である。
相当に奇妙で誇張された内容になっていて、まず久我美子が、数寄屋橋で「平和のために原爆を持ちましょう」と演説している。久我は、狂人であることが途中でわかる。
主人公は税務署員の木村功で、貧しくて葬儀屋の二階に下宿しているところから物語は始まる。
税務署内部の不条理さが描かれるが、ここは脚本の中心だった安倍公房のセンスが感じられるが、カフカ的な感じである。
所長の加藤嘉は、腐敗していて政治家の伊藤雄之助等から金を受け取っている。料亭の女将の山田五十鈴も、いろいろと絡んでいる。山田には子供が13人いるとのことで驚いてしまう。
ぼろぼろの家に住む貧乏人の信欣三の一家には子供が23人いて、貧困から最後は一家心中になる。心中が、魚屋が廃棄した原爆マグロを食べて死んだというのだから凄い。
木村は、加藤らの悪事を書いたメモを持っていて、それを町で失くすが、拾われ公表されて大騒ぎになる。
彼は、「自分が書いた人間だ」と名乗り出て、国会の委員会の証人に出席し本当だと証言するが、途中で気を失ってしまい、結局狂人とのことにされてしまう。
最後は、本当は久我美子の爆弾が破裂して地球の滅びを暗示させるものだったらしい。
だが、公開時にいろいろと問題があり、それはカットされて何かよくわからない曖昧な結末になっている。
この作品の助監督には、当時青俳とも関係していた野村孝がいて彼は、市川崑が、この作品の後、日活と契約したので、野村も日活に入社する。
野村孝は、『さぶ』、『夜霧のブルース』、『拳銃は俺のパスポート』などを作り出すことになるのだ。